かつや堅調・からやま好調で鮮明になったコロナに勝った外食チェーンの共通項 

油浅 健一
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18万件のプレスリリースでもっともアクセスされた「かつや」のすごさ

 こうしてみると、同社がコロナ禍でも失速しなかった要因に特別なものは見当たらない。ここまで挙げた要因はファーストフド業態の王道を追求していれば、常識といえる施策だからだ。では、かつやは、なぜ売上を落とさなかったのか。それは、同社の巧みな“仕掛け”にある。

 かつやでは100円クーポンが有名だ。一回の利用ごとに必ずもらえるこのクーポンは、最大で約2ヶ月有効で、もともと安い同社のとんかつメニューをより安く食せるとあって、多くのリピートにつながっており、その割合は7割前後ともいわれている。コロナ禍では特にこの“100円”が消費者の恵みとなった。

 キャンペーン施策も実に巧みだ。「お客様感謝祭」と銘打った割安メニューやボリューム満点の「全力飯弁当」「唐揚げ1キロ」といった食欲をそそる企画を年に1214回実施するなど、同社は「お客様が望むものに順応させた企画」をタイムリーに連発。そのキャンペーンも、デリバリに限定せず、店舗のみの対応メニューを織り交ぜるなど、単なるお得だけで終わらせない工夫をちりばめている。

 こうした消費者に刺さりやすい企画をメディアを使い、積極的に発信。潜在需要の喚起につなげた。2020年はプレスリリース配信のアクセスランキング(1~11月)で、18万件中アークランドサービスHDが年間1位を獲得。興味を持たれなければ見向きもされないプレスリリースの特性を考えると、いかに顧客ニーズに順応した情報発信ができていたかを裏付ける結果といえる。ちなみに、同ランキングの2位、3位はマスク関連。同社は話題でもコロナを打ち負かしたことになる。

勝ち組外食チェーンに「不思議の勝ちなし」

 アークランドサービスHDは、2021年度の計画では売上高440億円(対前期13.9%増)、経常利益50億円(同2.7%増)、当期純利益28億円(同18.3%増)を見込む。安い・うまい・はやいに加え、多様なニーズに対応する柔軟性と情報発信力・企画力でライバルに差をつけ、ファーストフード市場を快走する同社にとって、クリアするのはそれほど難しくない数字だろう。

からやまは第2の柱としてコロナ禍を背景に急成長している
からやまは第2の柱としてコロナ禍を背景に急成長している

 今後の懸念は、好調の原動力がかつや偏重になっていることくらいだが、第2の柱と位置付けるからやまの出店拡大、パスタやそばなど6業態のテスト出店、冷食事業の拡充、ネット注文全店導入によるテイクアウトのさらなる利便性向上など、絶対エースに頼らない体制の整備にも余念はない。特に、2020年の好調を下支えした冷凍とんかつや冷凍メンチカツなどの冷食事業は、海外の日本食レストラン等への販路開拓の武器にもなるだけに、“隠れエース”に成長する可能性も秘める。

 コロナが猛威を奮った2020年の外食チェーンの決算もおおむね出揃った感がある。勝ち組と負け組の明暗が分かれたが、その境目になにがあったのか。間違いなく言えることは、前者は例外なく顧客ファーストを徹底していたということだ。常に顧客を第一に考える。だからどんな状況になっても柔軟に対応できる――。

 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉があるが、外食チェーンにおいては、少なくとも「不思議の勝ちはない」といえるのかもしれない。

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