斜陽の「カタログ通販」から大転換 EC業界勝ち組になったスクロールの戦略
生協宅配向けカタログ通販事業を主力とするスクロール(静岡県/鶴見知久社長)。同社は、大手EC企業の台頭により、カタログ通販企業が不振に陥るなか、早期に従来のビジネスモデルからの脱却を図り、通販業界において独自の存在感を発揮している。現在に至るまでのスクロールの歩みと、今後の成長戦略を取材した。
20の子会社を持つ複合企業3期連続で増収増益
まず、スクロールが展開する事業について説明しよう。同社は、かつては一般向けカタログ通販を主力事業の1つとしていた。しかし現在は、生協宅配の利用者向けに特化したカタログ・ネット通販を行う「通販事業」のほか、通販事業者向けサポートサービスの「ソリューション事業」、ECの「eコマース事業」の大きく3つの事業を展開。それ以外にも、化粧品や健康食品販売の「健粧品事業」や、国内旅行企画の「旅行事業」など計6つの事業を行っている(図)。「通販事業」を除く前述した事業については、グループ会社が担う体制を築いており、傘下に20社の子会社を持つ。
スクロールはこうした自社の姿を「DMC(ダイレクト・マーケティング・コングロマリット)複合通販企業体」と呼ぶ。1939年、静岡県浜松市で洋裁所として創業し、そこから婦人服の直接販売(ダイレクト・マーケティング)に乗り出したことを起源に、時代に応じて事業を変化・多角化させて、現在の複数企業の集合体となった背景からこう表現している。
スクロールの2020年3月期の連結業績は、売上高は対前期比2.1%増の726億円、営業利益は同26.4%増の21億円、経常利益は同62.3%増の22億円。18年3月期から3期連続で増収営業増益となり、営業利益、経常利益は過去最高を達成している。
通販業界の近年の傾向では、アマゾンジャパン(東京都)をはじめとした大手EC企業の躍進により、カタログ通販を主軸としてきた企業の多くは苦戦を強いられている。そうしたなか、なぜスクロールは成長を維持できているのか。
その理由は大きく2つある。1つ目は、独自性の高い生協の宅配事業においてカタログ事業を展開している点だ。2つ目は後述するように、ビジネスモデルの大転換を図り、EC需要の取り込みを進めてきたことが挙げられる。
カテゴリーNo.1企業のM&AによりEC事業を確立
スクロールの歩みを振り返ると、60年代に組織・団体向けのカタログ通販を開始。そこから70年代に生協向け、さらには一般個人向けにと事業を広げ、支持を獲得していった。
大きな転機となったのが00年頃から大手EC企業が台頭したことだ。これに対抗するべく、スクロールもECシフトを加速させる。09年には、事業展開スピードを加速させるべく本部機能の一部を東京・天王洲に移すとともに、社名もかつての「ムトウ」から変更した。
しかし、半年以上かけてカタログを制作するビジネスモデルでは即時性という点で劣ってしまう。さらにEC事業のプレーヤーが特定カテゴリーでも専門的な品揃えを提供し始めたことから、徐々に対抗するのが難しくなっていった。
そこでスクロールは大きな変革を決断する。M&A(合併・買収)によってEC事業者を外部から取り入れ、それらの企業を軸として、eコマース事業を展開していく方針へと舵を切ったのだ。その第一歩として10年、ブランド化粧品ECのアクセス(東京都:当時の企業名はイノベート)を子会社化し、それ以降、EC関連企業を傘下に収めていく。
こうしたなかスクロールがeコマース事業で掲げたのが「カテゴリーNo.1戦略」だ。各カテゴリーにおいてトップクラスで支持を得ている企業を取り込み、特定カテゴリーに集中して競争力を高めることで大手ECと差別化を図るというものだ。
アクセス以外に、18年にはアウトドア用品のナチュラム(大阪府)を、19年には防災用品のミヨシ(大阪府)がグループ入りし、現在はこれに子会社である生活雑貨やインテリアなどのECを展開するスクロールR&D(東京都)を加えた計4社でeコマース事業を構成。20年3月期のeコマース事業売上高は187億円と、通販事業に次いで大きな柱に成長した。
その一方、個人向けのカタログ通販については15年に撤退し、通販事業は生協宅配向けに特化した現在のかたちとなった。
スクロールの鶴見知久社長は「個人向けカタログ通販が売上の大半を占めている場合、大きな変革に踏み切るのは難しい。一方で当社は生協宅配向け通販事業というもう1つの収益源を有していたことが幸いした」と説明する。