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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営11 ポストコロナはセールが不要になる

ウィズコロナ時代のショッピングセンター第11回は、年末が近づいたこともあるので「セール」をテーマにしたい。

今やセールに依存していると言ってもいい、ショッピングセンターの体質は変わるか?(tylim / iStock)

 

年末の風物詩、セール

 流通業界では年末が近づくとセールの話で持ちきりとなる。

 今年は新型コロナウイルス感染症(コロナ)禍でもあり、来店者が殺到し3密とならないよう分散傾向となるようだが、ここ数年、年末、それもかなり早い時期から「プレセール」「お得意さま向けセール」「フライングセール」などと題してセールが始まる。店頭にはセールと書かれたイーゼルが立ち、店内にもセールPOPが躍る。

 過去、春夏秋冬がはっきりしている時は8月も下旬になると秋の気配を感じ9月には秋物、10月には気温も低下し重衣料をプロパーで売ることが出来た。

 しかし、日本の年平均気温は100年あたり1.24℃の割合で上昇(図表1)し、10月でも30℃となるような温暖化した気候では秋冬物を売る期間は短くなってしまった。

 ところが毎年のように「今年は暖冬で冬物が売れない」とぼやく。何年同じことを言い続けているのだろうかと半ばあきらめ顔で聞くことが多いが、残念ながらもう日本は寒くなることは無い。

出所:気象庁https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/list/an_jpn.html青線:各年の平均気温の基準値からの偏差、赤線(直線):長期変化傾向。基準値は1981〜2010年の30年平均値。

 気候の温暖化によって日本の豊かな四季が失われていくことは本当に残念だがこれが現実。しかし、未だ、春夏(SS)・秋冬(FW)の季語によって生産を行っているアパレルが厳しくなるのは仕方のないことだろう。展示会と称したアパレルのイベントもコロナ禍で相当変化を迫られている。

統一セールは必要か?セールを続けたがる“謎”の理由

 毎年、百貨店や駅ビルからセール開始日発表されるが、とてもおかしなことだと常々思っている。プロパーの立ち上がりや新作の発表が話題になるのならともかく、在庫処分のセール日の期日はそんなに重要なことなのだろうか。

 「セールは日頃のお客様への感謝」という方がいる。しかし、自分が正価ですでに買ったものが安く売られているのを喜ぶ顧客がいるのだろうか。

 「セールは統一することで盛り上がる」と言う。でも残品を処理する行為を盛り上げる必要性はあるのだろうか。

 セール売上が前年を越えると喜ぶ。しかし、セールが前年を越えるのは、よほど在庫が余っていたか、お客さまがプロパー価格に納得していないのか、そのどちらかではないか。

 テナントに聞くと「館(ショッピングセンター<SC>)がやるから仕方ない」と統一セールを良く思っていない企業も多い。

 では、なぜセールをやるのか、と聞くと「セールはモチベーションを作る」とこれまた意味不明な回答が関係者からは返ってくる。

 各社は、春夏秋冬の節目に売上を大きく作ることをめざしているわけだが、セールの開催時期が1月と7月なのは流通企業に多い決算期の期末と中間期(2月、8)に合わせたものであり、在庫処分と期末の追い込みに合わせているに過ぎない。暖冬だろうが寒かろうがそんなことはお構いなしに行われる。

 確かに年間を通して平坦な販売体制より年間の途中に何度か盛り上がりを作るとスタッフの働き甲斐も高まるので現場のモチベーションに好影響を与えるということは理解できるが、あまりに事業者論理ではないのか。

 

 

“アウトレット”なのにさらにセールをする不思議

アウトレットモールでもセールは定着している(Shuttermon / iStock)

 2000年、まだ黎明期だったアウトレットモールの開業を担当した筆者は、夏のセールを計画していなかった。

 何故ならアウトレットモールは、アウトレットストアの集積体であり、B級品、サンプル品、季外品、キャリー品、キズ物などを処分する機能であり常時低廉な価格で提供することから、「セールはアウトレットモールというSCのコンセプトに反する」と理解していたからだ。

 ところが6月に入ると店長達から「セールはやらないのか?」と半ば突き上げのようなかたちでセールの実施を迫られた。その時の雰囲気は今でも思い出すが、セールに向かって浮足立つ店長達の感情がヒシヒシと伝わってきた。

 当時、アウトレットモールが黎明期だったことから店長達の多くはプロパー店から異動(赴任)してきた方が多かった。だから、これまで夏と冬のセールが当然のように働いてきた人たちばかりだったのだ。

 そんな勢いに押され、予定しなかった「アウトレットセール」なるものを挙行することになるのだが、急ごしらえだったため大失敗に終わる。

 その経験もあってアウトレットモールにおけるセール手法も徐々にレベルを上げ、プロパーセールとの棲み分けやプロパー商品の在庫状態も睨みつつ行い、アウトレットセールのパワーを付けていくのだが、その時も決して納得感を持っていたわけでは無かった。

 

実際、セールの損益はどうなのか?

 セールで大きく売り上げを伸ばすSCは多い。しかし、その損益を実際に計算したことがあるSCはどれほどあるのだろうか。

 セールを開催するためにはお客さまに事前の告知はもちろんのこと、テナントへもセールの実施時期や方法などを周知し、SCの営業担当は、セールに合わせた商品供給を店長や本部へ依頼する。販促担当もホームページやSNS、チラシ、雑誌、場合によってはテレビCMまで放映して周知を図る。現場もセール用の装飾を施し、統一のセールPOPを制作・配布する。セール当日も臨時警備のための誘導員の増強やセキュリティ体制を敷く。

この時間コストと金銭コスト、合計するといくらになるか分からないが、SCで導入されている最低保証付き売上歩合制(固定+歩合)賃料の上振れ分は、果たしてこのコストを上回る収入となっているのだろうか。SCではセール売上の話は聞くが収支の話を聞いたことがほとんど無い。セール期間の損益をぜひ計算してみて欲しい。

 

価格への信頼性とポストコロナのセール

 お客さまの価格への信頼性を失わせているのは他でも無い事業者にあるのではないか。買ったばかりのものが50%オフになる。どう考えてもおかしな話である。

 糸から生地、製品へと加工される流通ルートでそれぞれがマージンを乗せ大きな利幅を得ることができた時代は、大量に生産し、大量にセールし、残れば処分するビジネスモデルも有効だったと思うが、さすがにここに来て収束を迎えていると誰もが気づいているのではないか。

 ではそうしたら良いのか。批判していても始まらないので解を探したい。

 まず、生産体制を昔に戻そう。もちろん、テクノロジーの進歩を享受しての話だが、例えば家内制手工業だ。「何を言っているんだ」と言われそうだが、グローバル社会では生産場所を安い途上国に求め大量に作ることを希求してきた。しかし、コロナウイルスはそこに警鐘を鳴らしているのだ。

 2つ目に「今年の色、トレンド」などと言って毎年違ったものを作り続けることを止めよう。今はSDGs(持続可能な開発目標)の時代。何年も着ることができるもの、使えるものを作ろう。在庫は次の期に売ればいいではないか。

 3つ目にテナント企業を信じよう。「セールを統一させるとパワーが出る」と統一セールを開催するからテナントにセール商材を求めるようになる。テナントは、今、テクノロジーを駆使し、作り過ぎや短期的な生産を無くすよう努力している。そのテナント企業の体力や体質に合わせて価格設定と販売体制を全うすればよい。今、テナント企業の方が余程進んでいる。

 4つ目にSC事業者は、統一セールなど企画段取りしていることより他にやるべきことはないのか、を考えよう。テナント企業を回ってセールの打ち合わせをしている時間をもっと生産性の高いことに人材を振り向けられないのか。SC事業で働く若者を今後どんな人材に育てていくつもりなのか。

 統一セールを工夫するより、セールを不要とする技術革新の取り組みの方がよほど先進的だろう。

 

SC事業に携わる若手社員に問う

 これを読んでいる若手社員に問う。10年後20年後、自分はどんな人材になっているのか。ポストコロナ、成功を体験してきた人は、コロナ明けはコロナ前に戻ると思っている。いや、戻って欲しいと思っている。残念ながらポストコロナはコロナ前とは異なる社会になる。

 もし「リアルはコミュニケーションが強みだ」などとアナログな業務に埋没しているようであれば次の世界を作り出すことを考えて欲しい。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。