ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営11 ポストコロナはセールが不要になる

西山貴仁(株式会社SC&パートナーズ 代表取締役)
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価格への信頼性とポストコロナのセール

 お客さまの価格への信頼性を失わせているのは他でも無い事業者にあるのではないか。買ったばかりのものが50%オフになる。どう考えてもおかしな話である。

 糸から生地、製品へと加工される流通ルートでそれぞれがマージンを乗せ大きな利幅を得ることができた時代は、大量に生産し、大量にセールし、残れば処分するビジネスモデルも有効だったと思うが、さすがにここに来て収束を迎えていると誰もが気づいているのではないか。

 ではそうしたら良いのか。批判していても始まらないので解を探したい。

 まず、生産体制を昔に戻そう。もちろん、テクノロジーの進歩を享受しての話だが、例えば家内制手工業だ。「何を言っているんだ」と言われそうだが、グローバル社会では生産場所を安い途上国に求め大量に作ることを希求してきた。しかし、コロナウイルスはそこに警鐘を鳴らしているのだ。

 2つ目に「今年の色、トレンド」などと言って毎年違ったものを作り続けることを止めよう。今はSDGs(持続可能な開発目標)の時代。何年も着ることができるもの、使えるものを作ろう。在庫は次の期に売ればいいではないか。

 3つ目にテナント企業を信じよう。「セールを統一させるとパワーが出る」と統一セールを開催するからテナントにセール商材を求めるようになる。テナントは、今、テクノロジーを駆使し、作り過ぎや短期的な生産を無くすよう努力している。そのテナント企業の体力や体質に合わせて価格設定と販売体制を全うすればよい。今、テナント企業の方が余程進んでいる。

 4つ目にSC事業者は、統一セールなど企画段取りしていることより他にやるべきことはないのか、を考えよう。テナント企業を回ってセールの打ち合わせをしている時間をもっと生産性の高いことに人材を振り向けられないのか。SC事業で働く若者を今後どんな人材に育てていくつもりなのか。

 統一セールを工夫するより、セールを不要とする技術革新の取り組みの方がよほど先進的だろう。

 

SC事業に携わる若手社員に問う

 これを読んでいる若手社員に問う。10年後20年後、自分はどんな人材になっているのか。ポストコロナ、成功を体験してきた人は、コロナ明けはコロナ前に戻ると思っている。いや、戻って欲しいと思っている。残念ながらポストコロナはコロナ前とは異なる社会になる。

 もし「リアルはコミュニケーションが強みだ」などとアナログな業務に埋没しているようであれば次の世界を作り出すことを考えて欲しい。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。

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