新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大下で特需に沸くスーパーマーケット(SM)業界。しかし注意したいのは、オーバーストアで生き残りをかけた競争が激化している状況に変わりはないことだ。そうしたなか同質飽和化から脱却する方法の1つが、ディスカウンティング型フォーマットへの転換である。コロナ禍で業績好調な今こそ改革の好機だ。本稿では、その手法を伝授する。
競争に勝つための2つの方法
コロナ禍のSMは、外出自粛生活により、フードサービス業とコンビニエンスストアの需要を吸収している。多少の差はあるにしても多くのSMの既存店売上高は、前年同期実績よりも1割前後増えている。
とくに大型店が好調なのは、売場面積に余裕があるため、感染リスクが高まる“密”な状態にならず、また1店で必要な品が揃うからだ。しかし、特需に沸いている場合ではない。オーバーストアが深刻な状態で、本格的な競争が始まっていることには変わりはないからである。
現在、年商50億円以上のSM企業は412社あり、その店数を合計すると約1万4000店となる。これで日本の人口を割り算すると1店当たり人口は9000人にしかならない。
さらに、日本型スーパーストアのスーパースーパーマーケット(SSM)部門、また生協の店舗事業もSMと同じ機能を果たしているから、それらを店数に加えて計算し直すと、1店当たり人口は7500人に減ってしまう。SMの必要商圏人口は約2.5万人といわれるなかで、現状はその3分の1以下しかないのである。これはSM業界が本格的な競争の時代に突入していることを示している。
そうしたなか同質競合化から脱却し生き残るための手法として、次の2つの方法が挙げられる。
1つめは、正統派のSSMをめざすことだ。売場面積が700~800坪あれば、大型カートを使える広い通路幅や、売れ筋商品の十分な陳列量を確保できる。加えて他社が扱えない新たな品種を拡大可能なため有利なのだ。その場合のモデルはアメリカのSSMの大チェーンである。
現在の日本の大手SM企業は1970~80年代、商品部門数を増やし、また生鮮3品の核売場の面積を既存の2倍以上にすることで、売場面積を300坪未満から500坪以上に大型化して生き残った。これと同じ手法でもう一段階、大型化をねらうのだ。
そして2つめの手法が、ディスカウンティング型SMへの転換だ。まだモデルといえるほどの成功例は出ていないが、現在収益性の高いSMの新興勢力はディスカウンティング型である。
同フォーマットが有利な点は、同業者と同じ土俵に立つことなく勝ち進めることである。フォーマットの乗り換えという挑戦は、既存のフォーマットが好調なときに実行するに限る。調査費と人材を豊富に使えるからだ。現在のように特需があるうちに一挙に改革を進めれば、未来は開けるのである。
原点回帰で低価格への執念を再燃させる
ディスカウンティング型SMの最大の特徴は価格政策だ。その名のとおり低価格が消費者を引き付ける。
しかし現在のSM企業は低価格化に熱心とは言い難い。60年代の黎明期のSM各社は、定価を維持したいメーカーを敵に回してお客のために安売りを強行した。その成果として90年代になって初めてオープン価格制、つまり小売業が値段を決める権利を勝ち取ったのだ。しかしその後は立地が異なるデパ地下の真似をして値段の高い特殊な品を扱うことをよしとし、ベーシック商品の値段を下げることに熱心でなくなった。
一方、非食品フォーマットは意欲的にバーティカルマーチャンダイジングシステム構築に取り組んでいる。その結果、売価が以前の半分以下になったものが多い。それに対して食品の値段はまったく下がっていない。だからエンゲル係数がアメリカの2倍以上もあり、残念なことにその差はさらに広がりつつあるのだ。
SM企業は原点に戻らねばならない。値段を下げることを第一に考えるのだ。それがディスカウンティング型SMの神髄である。
同フォーマットへの転換を図るにはまず、商品構成グラフのかたちを決めることだ。品種グループごとに現状の品揃えをグラフ化し、図❷のようなディスカウンティング型に合わせるのだ。
最初のステップは現状のグラフから右寄りの高価格帯に属する品目をカットする。いくら価格が安いものを増やしても、高いものがあればそのほうがお客の記憶に残るからだ。高価格帯をカットすると価格レンジ(売価の上限と下限の幅)は狭くなる。
次に、価格レンジ内の価格ライン(売価の種類)を集約する。多くて5本、できれば3本以内に収めたい。もちろん1本にできるならそのほうが有利だ。価格ラインは多いほどお客を迷わせ、結果的に買上品目数が減るから不利である。
プライスポイントつまりは品目数も、陳列量も、最大の価格ラインは価格レンジの上限であってはならない。下限もしくはその次に低い価格に設定すべきだ。お客がいちばん買いたい値段でなければならないのである。
EDLPの価格戦略で「安い」イメージを浸透させる
ディスカウンティング型SMで重要なのは、決めた価格を維持することだ。短期の特価特売は行わない。EDLP(エブリデー・ロープライス)で「安い」というイメージを消費者に浸透させるのだ。特売日を設けるとその日以外は値上がりすると受け止められるから固定客が育ちにくい。EDLPならいつも同じものが同じ低価格で売られているから安心してその店を贔屓にできる。
今日では成人女性の75%が仕事を持っているのだから、特売日だからといって買物を優先するわけにはいかない。仕事の前後に定期的に買物するにはEDLPでなければならないのだ。欧米のSSMはディスカウンティング型でなくてもEDLPなのはその販売方法が時流に合っているからである。
もう1つ重要なのは、時間をかけて価格レンジ全体をさらに左寄せしていくことだ。低価格化に終わりはない。業界の最低価格に挑戦して欲しいが、すべてがそうである必要はない。しかし、とくに需要のあるベーシック商品だけは仕入れの努力で最低価格に設定したい。ただし、適切な粗利益率を確保できることが条件だ。そうでなければ継続できないからである。
取り扱う商品は幅広いお客にとっての高購買頻度品に限る。それゆえ、トータルの取扱品目数は少なくなる。SMの平均は1万品目を少し超えるくらいだが、ディスカウンティング型ならその半分ほどが目安だ。神戸物産(兵庫県/沼田博和社長)の「業務スーパー」は2400品目と発表しているように、少ない品目でもお客の基本的なニーズはカバーできるのだ。
売れ筋は1品大量陳列し、少し売れるものは少量陳列にして、死に筋は排除する。目標は販売量と陳列量を正比例させることである。すると品目ごとに陳列量は大幅に格差がつくはずだ。そうすれば売れ筋の分類ごとに、同時に補充作業を進められるから作業効率は一挙に高まる。
商品調達、物流システムの内製化が競争力の差に
売れ筋の1品大量陳列には商品調達方法の革新が前提になる。売れ筋は現在取引中の問屋に電話注文してもそれ以上は集まらないし、できたとしても人気商品ほど調達価格が高すぎて安売りはできない。だからディスカウンティング型SMには独自のソーシング活動による革新的な商品調達ルートの確保が不可欠だ。
一方で自社開発品を増やす。現状の売れ筋品目の品質はそのまま維持しながら、売価を下げるためだ。また、欠品を発生させず、安定的に数量を確保するためでもある。
そうした新たな活動のために商品部の人員を増やす。バイヤーを増やすだけでなく、商品部の機能を細分化した組織活動で目的を達成するのである。
具体的には、①最も効率のよい棚割りを追究するバイヤーと、②ストアブランドやプライベートブランド商品を開発するマーチャンダイザー、③有利な取引先を新規開拓するソーシングの専門家、④品質管理のエキスパート、⑤試用、試売の専任担当、⑥商品部内の事務作業を一手に引き受け、部下を使って効率よく目的を果たすオフィスマネジャーといったように、一連の業務を分担するのだ。商品部の機能を分業して専任化することで、今までより進化した商品部の活動が可能になる。
商品の販売単位は大型パックを増やす。安いとお客はまとめ買いをしたくなるので新たな販売方法を模索する。日本でも店を増やしている米国の会員制ホールセールクラブのコストコ・ホールセール(Costco Wholesale)の販売方法をモデルにして新たな販売単位を決めるのだ。
物流についても、問屋に頼らず独自のシステムを構築しなければならない。従来型のSMでもチェーン化するなら自前の物流システムが不可欠だが、ディスカウンティング型SMならなおさらだ。売れ筋の欠品回避のほか、作業システム改革ために、物流センターが不可欠となる。
この際気をつけたいのが、補充単位と陳列用の荷姿を連動させることだ。物流センターで効率の悪いピースピッキングをしたくないからだ。折りたたみ式コンテナではなく、すべて箱で納品できるようにする。もちろん発注単位も箱が最小単位でピースではない。
現在、積極的に物流センターへの投資を進める企業と、いまだに問屋の物流システムに乗っている企業で二極化しているが、勝つのは前者だ。理由は、物流センターは「店の業務・作業を肩代わりしてくれる場」ともいえるからだ。
店内作業のセンター化でローコスト体質の企業へ
安売りの前提となるのはローコストオペレーションだ。販売管理費が高ければ、原資となる粗利益高が削られて利益が出なくなるからである。したがってディスカウンティング型SMにとって商品調達価格の低減とローコストオペレーションは、車の両輪のように同時に稼働することでパワーを発揮する。
前述したように、そのためには物流センター建築の設備投資が不可欠だ。現在店舗で実行されている業務と作業を、店でしかできないことのみに絞り、残りはすべて本部または物流センターに集めて実行する。そうすると店の作業は①補充、②チェックアウト、③掃除のみになる。事故処理とお客の応対には店長が当たる。
同じゾーンに属する全店分の作業を物流センターに集めれば大量になるので、最新の機器を使って効率的に作業を進められる。デジタル技術の進化によって自動化できる作業の範囲は広がり続けているのだ。それらの作業を店ごとに個別に実行すれば人海戦術から脱却できず、進化は望めない。その差は想像以上に大きく、格差は拡大する一方だ。
発注量の決定も同様に、物流センターに所属する社内ディストリビューターが、次の補充日までの販売数量を予測する。全店の販売データをまとめて分析することで正確に予測できるようになるのだ。
その結果、店のバックヤードに在庫がたまらないようになる。短期での特売もしないから後方在庫をゼロにできるのだ。すると無駄な店内作業がなくなり、総人時数も減らせる。
魚や肉のプリパッケージや総菜の調理・加工などもセンターで実行するため、その人時も必要なくなる。それだけでなく、調理・加工技術の訓練もしなくて済む。さらに調理・加工場も不要だから売場面積を増やせる。ディスカウンティング型SMの場合、店舗面積の8割以上を売場にできる。
ディスカウンティング型SMで、最も高い比重を占める店内作業は商品の補充だ。したがって、店舗レイアウトは楽に作業ができる工夫が必要となる。お客のワンウェイコントロール対策とは別に、補充動線の確保がいるのだ。通路はハンドリフトや籠車が楽に通れる幅を確保し、曲がり角は少なくする。堅固なドミナントエリアなら補充部隊は店の専属ではなく、各店を巡回して作業することもできる。専任なら短時間で完全作業が可能である。
ディスカウンティング型SMを完成させるためには商品と作業、そしてセンターと店舗、それぞれに改革が必要である。今こそ、それを進めるときである。