コロナ禍でスーパーマーケットが変容を余儀なくされたものの1つが販促施策です。密になってはいけないという制約の中でも、店舗は集客しないわけにはいきません。顧客に対しては、今も混雑時間の回避や最小人数での来店といった要請を続けています。そうしたお願いに加え、顧客が来店を分散できるように販促のあり方を変えてきたのがコロナ以降の流れです。「分散して集客」。一見すると矛盾さえ感じる表現ですが、そのような新常態にあって、これから販促はどうなっていくのでしょうか。
ハイ&ローからEDLPへ
緊急事態宣言のさなか、スーパーマーケット(SM)の多くはチラシによる販促を中止しました。6月以降は総じて価格訴求が強まりましたが、その打ち出し方はコロナ以前と異なります。上期業績の会見でSM各社の経営者が口をそろえたのは、「特売によるハイ&ローはやりづらい」、「曜日セールは難しい」、「時間帯セールも困難」といったことで、来店客の集中を促すような「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」的な従来型の施策はできなくなったということでした。
とはいえ価格は消費者にとって重要な関心事で、セールやポイント還元は強い来店動機を生みます。そうしたなかSMがどのような工夫をしてきたかというと、「この日だけ、この時間だけ安い」という売り方の比重を下げて、毎日低価格、すなわちEDLPへの傾斜を強めました。6月以降、「今月はこの商品をずっとこの価格で」といった期間セールが前面に押し出されるようになりました。特価が1日から月間に広がれば、来店日の分散につながります。
既存セール企画は値下げ期間の延長で対応
ただ、コロナ以前にやっていた販促企画を無くしてしまうことは、既存顧客を失望させることにつながります。この曜日はポイントが何倍に、この週末はワインが一律割引といったセールは、ロイヤルカスタマーほど日常の買物計画に組み込んでいるものです。
そうした顧客の期待への対応として、ヤオコーは「カテゴリーセール」の期間を伸ばしています。月に2日だったものを4日に、または1週間にするなどして、特定日への集中を避けつつ、顧客の買物習慣も維持できるようにしています。
カスミは、木曜と日曜午前をほぼ全カテゴリー10%割引としていましたが、現在は両曜日に次回の買物で使える10%引きクーポン券を配布する方法に改めました。それぞれ1週間の利用期間内であれば、何曜日に来店してもいいようにしています。シニア優遇・子育て支援デーの5%割引との併用も可能といいます。
このように割引の期間を延長することが販促の新常態になっているわけですが、言ってみれば値下げ期間の拡大であり、やはり非常時の緊急措置といった印象です。アフターコロナには元に戻ることでしょう。
一方で、チラシ配布に代表される「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」的な施策がやりづらいことで、アプリを活用する気運が高まっています。
カスミはUSMHアプリの機能強化を進めています。商品検索ができて、注文ができて、店でも家でも受け取れて、レジに並ぶことなく商品スキャンも決済もスマホで完結というサービスが一部店舗で始まっています。アプリの機能を充実させることで利用者を増やし、蓄積したデータをもとにターゲット別のマーケティング活動を本格化していく予定です。
アプリ越しに「ささやきかける」販促
USMHと同様の青写真を描くのがライフコーポレーションです。スマホアプリに新たに独自電子マネーの決済機能を組み込み、利用者を増やして将来は one to one マーケティングを目指すといいます。自社マネーの優遇策を強化して、キャッシュレス化と共にアプリ活用を促進させる方針です。
アプリを経由して、購買履歴が分かっている個々人にマッチした商品情報を届けるというアプローチは、チラシに特売品を開陳して「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」と誘う方法とは異なります。強いて言えば「あなたはこれが欲しいんでしょう? こんな値段になってますよ。ポイント還元もしますよ。あと、こんなものもいかがですか?」とささやきかける感じでしょうか。こちらのことを理解している分、セリフにすると多少いやらしく聞こえ、長広舌になってしまいます・・・。
こうした販促は、アマゾン(Amazon.com)はじめオンラインショッピングでは当たり前ですし、リアル店舗も当然ながら将来の手法として検討はしていました。それがコロナ禍をきっかけに、強制されるかのようにシフトしていく様子は、世の中で散見される他のいろいろな変容と同じです。
アマゾンも、先日実施した「プライムデー」のように、特価の目玉商品を並べる「寄ってらっしゃい」的な販促を全くしないわけではありません。そのプライムデーですが、特価だけでは私は動きません。気になる商品はお気に入りに登録して価格の推移を見守っており、それが安い場合には購入します。しかしプライムデーの巧妙なところは、この期間に購入するとセール品以外でもポイント還元が増えるところで、けっきょくはそれなりに買物をしてしまいました。「寄ってらっしゃい」と同時に、「これだけポイント還元しますよ」とささやいてくるのです。組み合わせの妙技です。「寄ってらっしゃい」か「ささやき」かの二者択一ではなく、チラシとアプリを駆使する新常態が、いよいよSMでも本格化するのだろうと思います。