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地域土着スーパー「やまと」がなぜ潰れたか 元経営者が語る倒産の「必然」

創業105年、山梨の老舗スーパーとして全国的にも知られた「やまと」が2017年に経営破綻した。家庭で不要になったレジ袋の買い取り、移動スーパー、ホームレスを正社員として採用するなど数々の奇抜手もあり、地域土着スーパーとして多くのメディアにも注目された。そのやまとが、なぜ倒産せざるを得なかったのか。19年に破産手続きを終えた元社長の小林久氏は著書「続・こうして店は潰れた」のなかで、5つの理由をあげている。その一部を上下にわけてお届けする。

山梨の地域土着スーパーとして知られたやまとはなぜ倒産したのか。元社長が反省をこめて綴る(laymul/gettyimages)

倒産した5つの理由① 部下に任せることをしなかった

 さて、倒産してから慌ただしい日々を過ごしてきたが、時間の経過と共に冷静になって考えてみると、当時は気づかなかったものが見えてくる。

 なぜ、100年以上続いた「地域土着スーパーやまと」は潰れてしまったのか。 「5つの理由」を挙げて検証してみたい。ビジネス書でよく見るパターンだが、これは専門家の意見ではなく、会社を潰した経営者本人の分析である。先代から15000万円の大赤字を引き継ぎ2年で黒字化した後、私が社長になって からの経営に対して、言い訳がましいことはなるべく抜きで第三者の視点で考えてみる。

 第1に、営業方針や人事管理、資金繰り等社長がすべてを担い、部下に任せなかったこと。対外的にも同業他社とは歩調を合わせず、反感を買ったこと。 そのため社長が裸の王様となり第三者の進言に耳を貸さず、重要な情報が入らなかったことである。

 私は人に任せることが嫌いなわけではない。朝の仕入れから夜のレジ締めまで、従業員 はみんな身を粉にして働いている。そのため余計な負担はかけたくないという安易な思いから、売り場以外の仕事は自分でやろうと決めた。「ここに店を出す、こんな販促をする、こんな人事にする」

 周りの意見は聞くが、社長の意見には反論も出ない。なまじっか成功することも多かっ  たので、自分のアイデアは常に的を射ていると勘違いが始まり、実利に結びつかない販促も目立った。

 現場スタッフもギリギリの人数で回していたため、数多いイベントやチラシ広告につい ていけず次第に疲弊していく。私自身、社長になってからの 15年間は年に 10日にも満たない休日で走り続け、最後には精神科のお世話にもなった。

 組織や人材育成は、一朝一夕でできるものではない。景気のいい時代ならともかく、厳しくなればすぐ崩れていく。経営は短距離走ではなく、終わりのない駅伝のようなものだ。私のように区間新記録ばかり狙っては駄目なのである。

 メディアで同業他社の記事を見るたび、負けず嫌いの血が騒ぐ。 「地域のためならなんでもやる、彼らの真逆を行く!」と心に決め、群れることを嫌い、業界団体にも属さなかった。仕入れを支える「取引業者協力会」もつくらなければ、 「経営方針発表会」もやらない。

 レジ袋有料化など、足並みを揃えるどころか勝手に走り出し、さも他のスーパーが悪者のように演出して追随を煽る。これでは、ある意味同じ船に乗っているとも言える同業者の反感を買うのは当然である。おまけに県内スーパーでは一番若い 40代社長で、 「社長の安否は新聞で確認できる」と揶揄される。スーパーやまとの一番の売りは店舗の商品ではなく、社長個人のキャラクターだった。これではイザというとき助けてくれる人がいるはずがない。潰れて当然の店である。

倒産した理由② 地域の消費者の購買を担保できなかった 

 第2に、地域貢献の旗の下、大手なら手を出さないことまで実行したが、話題にはなっても地域の消費者の購買を担保するものではなかったこと。 「地域土着」などと格好をつけ、メディア受けすることを次々と実行する。「環境問題を牽引してやる!」と意気込んで、家庭生ゴミにお駄賃をつけて回収したり、古新聞・古雑誌、古着や廃油、空ペットボトルやアルミ缶を回収換金して寄付。移動販売もするし、空き店舗にも出店していく。

 店が潰れたと聞けば、そこに乗り込み居抜きで継続。ホームレスも雇用するし、困窮家庭への食品提供の窓口にもなる。暴力団の抗争事件の最中に、甲府市中心街に補助金ももらわず出店し、挙げ句の果てには「不肖の父」に反 して最年少で山梨県の教育委員長様に納まる。これをメディアが放っておくはずがない。

 地方紙・地方局はじめ、全国の新聞やテレビでやまとの活動が紹介され、ドラマや CM、映画ロケでもやまとは頻繁に利用された。人に「あんたは憎まれはしないが、やっかまれるから気をつけろ!」と言われた。そし てたくさんの人から「選挙目当ての行動だ」とも……

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 こうして列挙したもののほとんどは、民間企業は採算が合わないために手を出さない。本来、行政の仕事であるからだ。 「頼まれたら断らない」ではなく、 「頼まれたらうまく断る」のがふつうの経営者である。

 管轄外のことに協力して、大切な従業員の生活を脅かす事態になることだけは絶対に避けなければならない。「きっとお客さんは見ていてくれる。迷ったときにはやまとに買いに来てくれる。すべて赤字のピンチからやまとを救ってくれた地域への恩返しなのだから!」

 その結果といえば……。商品力の弱いやまとのお客さんは高齢者が中心で、競合店が少ない店舗(他に店がない)の利益で他の競合の激しい店の赤字を埋める状態が続いた。地域貢献やメディアへの露出は、一時的な売上アップにはなっても、長くは続かない。

 恩義 だけで買いに来てくれる人は少ない。時代は昭和ではない。近所に安い店やこだわりの店、便利な商業施設はたくさんある。 こんなことばかりしている社長は失格。従業員がかわいそうだ。倒産は必然!