「新しい生活様式」が食品小売を進化させる3つの理由

雪元 史章 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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米国で活況の「BOPIS」も拡大?

 コロナ禍でECへの需要が急伸しているなか、食品小売業はネットスーパーの展開についても、あらためて戦略を練り直すフェーズに入っている。

 ただ、ネットスーパーは事業単体ではほとんど収益を出せていないのが実情だ。日本のネットスーパーは店舗出荷型(店舗で商品をピックアップし配送する)が多くを占めており、手数料を徴収しても賄えないくらいの中間コストがかかっているためである。そのため、需要は日に日に高まっているにもかかわらず、思うように事業規模は拡大していない。

 その一方で注目したいのが、主に米国で広がりを見せているB O P I S(B u yOnline Pick-up In Store:ネットで注文した商品を店頭で受け取れるサービス)だ。BOPISは配送コストがかからず、導入コストも低いほか、顧客も指定した時間に在宅している必要がないという利便性がある。ネットスーパーの新たな受け取り方法として、日本の食品小売業でも徐々に浸透しつつあるトレンドだ。また、広義のBOPISに含まれるカーブサイドピックアップ(駐車場の専用スペースで商品を受け取れるサービス)を、コロナ対策の一環として導入する企業もあり、イオン(千葉県/吉田昭夫社長)やバローホールディングス(岐阜県/田代正美社長)などが一部店舗で開始している。

 ただ、BOPISについてはお客が「店から商品を持って帰る」というプロセスが生じるため、クルマでの来店が多い郊外立地の店舗でのみ有効だという見方もある。また、既存の店舗や駐車場内に受け取り拠点を新設する必要もあり、需要が大きい都市部立地の店舗ではスピーディな拡大が難しい面もある。導入に際しては、商圏特性に合わせて検討する必要があるだろう。

 このほかにも、従業員と顧客の双方の感染防止・健康維持を図るための働き方改革や店づくり、変化する消費ニーズに対応した商品政策の策定など、食品小売がやるべきことは枚挙にいとまがない。消費者の生活様式が変わっていくなか、売り手である食品小売企業も、同じようにドラスティックな変化が求められているのだ。

 周知のとおり、食品小売業のなかでもSMは、コロナ禍のいわゆる“巣ごもり需要”を取り込み、業績が大きく上向いている。赤字企業が黒字転換を果たした例もあるなど、まさに特需といえる状況である。しかし、この変則的な情勢下での好業績はあくまでも一時の追い風。小売業界が直面していた問題から目をそらし、現状に甘んじていては、コロナ後の世界を生き抜くことはできない。そのためにも、食品小売というビジネスがコロナ禍を経てどのように変容していくのか、さまざまな切り口から考察しておくことが重要だ。

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記事執筆者

雪元 史章 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

上智大学外国語学部(スペイン語専攻)卒業後、運輸・交通系の出版社を経て2015年ダイヤモンド・フリードマン社(現 ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。

企業特集(直近では大創産業、クスリのアオキ、トライアルカンパニー、万代など)、エリア調査・ストアコンパリゾン、ドラッグストアの食品戦略、海外小売市場などを主に担当。趣味は無計画な旅行、サウナ、キャンプ。好きな食べ物はケバブとスペイン料理。全都道府県を2回以上訪問(宿泊)済み。

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