この3月以降、全国の小中学校、高等学校などに対する休校要請、幼稚園・保育園の休園・登園自粛要請、テレワーク推進や外出自粛要請などにより、巣ごもり生活を経験することになった世帯は少なくない。そうした中、注目されているキッズ向けの仕事体験ができるゲームコンテンツ“ごっこランド”を紹介するとともに、小売業界がどう活用できるかについても言及したい。
仕事体験ができるキッズ向けゲームアプリ
分別のつく大人ならば「(新型コロナウイルスの感染拡大は)緊急事態だから」と、ある程度の我慢もできるだろう(分別のつかない大人も多いようだが…)が、小さな子どもを抱える世帯ではそうはいかない。そうした子育て世帯から、あらためてその機能に注目が高まっているのが、キッズスター(東京都/平田全広社長)が運営する社会体験アプリ「ごっこランド」だ。「スマートフォンやタブレットから、いろいろな職業体験ができる、いわばキッザニアのアプリ版だ」(同社取締役・金城永典氏)
子育て世代(ファミリー層)の約3分の1にあたる330万世帯が利用しており(2020年4月現在のダウンロード数)、これまでのところ、43社が仕事を体験できるゲームコンテンツを提供している。その43社の中には、食品スーパー(SM)での取扱いのありそうなメーカー系が14社、外食8社、流通小売3社(コンビニエンスストア、ドラッグストア、百貨店)が含まれている。
ごっこランドの対象年齢は2歳~9歳。1カ月に1回以上起動するユーザーは、平均で60分、ひとつのゲームを楽しんでおり、1カ月以上利用しているリピーターは83%にのぼる。また利用の8割のシーンでは、親子がいっしょに楽しんでいる(すぐそばに親がいる場合も含む)。外出の自粛要請が厳しくなった3月以降、1日に利用したユーザー数は30%増加しており、月間のアクティブユーザー数も25%のアップ、ゲームのプレイ回数は40%増えている。
ごっこランドが提供するゲームはどんなものなのか。
たとえば、キユーピーの場合、さまざまな野菜をキャラクターに仕立てた、絵合わせカードゲーム。カードを揃えると、そのキャラクターに合ったサラダの材料が集まり、集めた野菜を皿に盛って卵をトッピングし、最後にキユーピーのマヨネーズやドレッシングをかけてサラダを完成させるというもの。
ヱスビー食品は、マップ上に隠れている、スパイスを模したキャラクターを探し出すもので、見つけたキャラクターを自分だけのスパイス図鑑「おはスパずかん」に追加していく。図鑑に収録されたキャラクターを選ぶと、スパイスの名称や特徴、使われる料理や使い方が表示される。
味の素の提供するゲームは「『Cook Do®』(クックドゥ)で おやさいすきになっチャイナ!」。中華の達人になりきって、料理に使う野菜をたくさん切るゲームで、回鍋肉はキャベツ、麻婆茄子はナス、青椒肉絲はピーマンが、画面内を飛び回る。邪魔するアイテムをよけながら制限時間内にどれだけ上手に野菜が切れたかを競うものだ。最後に「Cook Do®」を使ってお題料理の調理工程を疑似体験することになる。
ゲームを通じて、嫌いな野菜にも興味を持つことも
いずれも、子どもが直感的にゲーム内容を理解できる簡単なものだが、それでいて、なかなか飽きさせないクオリティに仕上げられている。
というのも、キッズスターは知育アプリの開発実績が豊富で、子どもたちが繰り返し楽しく遊ぶためのノウハウをもっているからだ。
加えて、協賛企業1社ごとに「1からつくる」オリジナル性も、子どもたちの心をつかんで離さないポイントだ。
だからこそ「企業公式の“ごっこ遊び”を通じ、企業と子育てファミリー層とのコミュニケーションを図る」(同)ツールとして活用されているのだろう。
実際に、ごっこランドにゲームコンテンツをアップした後に、その企業ブランドへの信頼度や第一想起のポイントが上がったというデータもある。
しかし、それ以上に興味深いのが、ユーザーがSNS上に投稿する生の声だ。
たとえば、「子どもたちの偏食がすっかりなおった」とか、「歯磨きを自主的にやるようになった」とか、最近では次のような投稿があったという。
「『Cook Do®』(クックドゥ)で おやさいすきになっチャイナ!」内でキャベツのざく切りに挑戦していた子どもから、「クックドゥのホイコーローが食べたい!」というリクエストがあった。しかも、それまで葉野菜全般を、決して口にすることのなかったのに「キャベツ入れてね」と注文も入って、結局、キャベツだけでなく、ピーマン、長ネギもしっかり食べてくれた。
こうした声から見えてくるのは、ごっこランドでの遊びは、子どもたちの生活を変化させるということだ。その結果、ファミリー層の買い物行動にも影響を及ぼす。
ごっこランドは、ゲームコンテンツを提供する企業と、子育てファミリーとのコミュニケーションツールではあるが、それだけにとどまらず、彼らの商品購入やサービスの利用機会の増大に影響力をもつということだ。そして、SMとして見逃せないのは、現在、ゲームを提供している企業の顔ぶれをみると、SMに関連した商品を扱うメーカーが少なくないという点だ。
子育てファミリーはSMがメーンのターゲットとする層。その3分の1に深くリーチできるごっこランドは、たとえ自社として提供できるゲームコンテンツがなかったとしても、SM自身が自分たちには「関係ないもの」と簡単に片づけてしまうのはどうだろう。
ごっこランドのコンテンツ、子育て世帯のユーザーの声、ゲームコンテンツを提供するメーカーの商品、これらを関連付けた売場をSMが構築できれば、新たな販促効果を生み出せる、そう考えることもできるのではないか。