VUCA時代の小売と消費のカタチ・後編 コロナ禍の今こそ向き合いたい、世界トレンドから読み解く消費の形

2020/03/25 05:39
    堤 藤成  株式会社フェズ クリエイティブ・ディレクター/広報部長
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    多様性への配慮でグローバルな店頭を実現する、マレーシアの小売

    豚肉や酒類などのノンハラルコーナーは店内の奥まった場所に配置されている
    豚肉や酒類などのノンハラルコーナーは店内の奥まった場所に配置されている

     続いて、私が近年まで住んでいたマレーシアの小売の事例を紹介したい。マレーシアはそもそも、マレー系、中華系、インド系を中心に、日本、韓国、欧米まで様々な人種が混在する多国籍国家である。つまりマレーシアの小売店は、イスラム教(61%)、仏教(20%)、キリスト教(9%)、ヒンドゥー教(6%)、儒教・道教(1%)など、実に多様な文化的背景を持つ人々を相手にした店舗を構える必要があるのだ。

     例えばイスラム教であれば、豚は汚らわしく触ることも許されないタブーである。そのため豚肉を買える場所は店内の奥まった場所に設置された特設コーナーに配置され、購入するレジも別。またヒンドゥー教において牛は神聖な存在なため、食することができない。そのためマレーシアの店頭では宗教的なタブーがない鶏肉がメーンに陳列されている。それに対して日本の食品売場は、豚・牛・鳥が配慮なく一緒に並べられている状況だ。宗教的背景を持つ人々が見たら、この光景をどう感じるだろうか。

     また国ごとに使う食材や調味料も大きく違うため、日本の調味料からお菓子、日用品までを集めたコーナーをはじめ、韓国料理向けの棚、インド料理向けの棚など、各国の文化に配慮された特設の棚を置いている小売も多い。またイスラム教ではハラル認証と言う宗教的に食べて良い食べ物が細かく規定されていることも多い。現地のマレーシア人の友人からは「日本は旅行してとても清潔だったが、イスラム教の私にとっては色々と不便な点も多かった」との声も聞く。少子高齢化で人口が減る日本において、外国からの消費者もますます重要になってくる。各国の宗教的背景を持った外国人に対して、グローバル視点でのダイバーシティに配慮した店頭を実現することができれば、更なる売り上げアップは確実だろう。さらにこの視点は、今後日本の小売が世界に出ていくためにも欠かせないはずだ。

     

    VUCA時代、小売とメーカーは
    消費と地域を元気にするヒーローになれるか

    コロナ対策で客足が減ったオランダの小売店、一部区画だけ営業したり休業している店も多い
    コロナ対策で客足が減ったオランダの小売店。休業している店、一部区画だけ営業する店も多い

     今回はコロナショックを契機に、リテイルと言う言葉の語源、そして本質的な役割を見てきた。さらに今後の小売と消費を考える上で、選択と集中で生産性を高めるオランダの事例と、多様性への配慮でグローバルな店頭を作り上げたマレーシアの事例を取り上げたが、いかがだっただろうか。

     ​実はこの記事を書いている間でも、現在はヨーロッパの方がコロナショックの影響は日増しに大きくなってきている。外出禁止の徹底や飲食店の営業禁止、小売店も一部区画だけしか開けないなど、ある点ではコロナ対策の徹底ぶりは日本よりも進んでいるように感じる。

     一方では、ヨーロッパの場合は元々マスクをする習慣がなかったため、買いたくてもマスクが売られていないという状況もあり、店頭でもマスクをして接客している人が少ないなど、遅れていると感じる部分もある。本稿では、一方的に海外の小売を礼讃したい訳ではない。ただ客観的に日本の小売と海外の小売を比較することで、どちらにも優れている点と克服すべき点があり、双方学べるヒントがあると思っている。

     それではここで、前編・後編に渡って述べてきた、私の結論をまとめたい。

     それは先が見えない今回のコロナショックだからこそ、思考停止に陥ることなく、「必要な人に、必要な分だけ届ける」という本質的な小売の価値と向きあうこと。そして、これからの消費のカタチをに想いを巡らし、小売業界の働き方やビジネスモデルを抜本的に変えていく『変革の機会』と捉えること。そして小売とメーカーの皆様には、アフターコロナの世界で、消費と地域を積極的に牽引していくヒーローの役割を担って欲しいということだ。

     消費に関わる私たちが「コロナショックにどう向き合うか」という考え方、捉え方次第なのだ。今回の問題を一時的なトラブルとして捉え、付け焼き刃の対処療法を打つだけなのか、それとも小売の本質的な価値に立ち返り、変革の機会と捉えるか。目の前の消費の落ち込みを嘆いてるだけでは、問題は長期化するだけだ。営業時間の短縮や在宅勤務を強いられる今の現状は、小売の新しい働き方やビジネスのあり方にトライする絶好の機会とも言えよう。コロナウイルスが収束した先の未来、つまりアフターコロナにおける日本の明暗を分けるのは、そのマインドセット次第なのだ。

     さらに小売が変革の姿勢を示すことは、売り上げが落ち込む同じリアル店舗型ビジネスである飲食業界などにも勇気を与えるだろう。お店に人が来ない時期は、これまでじっくり取り組めていなかったデジタル集客や業務効率化など、腰を据えて取り組む絶好の機会であると言えるからだ。

     今回のコロナショックは、小売、メーカー、そして消費者が、それぞれの立場で行動を見直し、新たな理想を見つけていく契機である。立場を超えて協力することができれば、きっと日本は元気になれる。後から振り返って今回のコロナショックが、小売の新しい道を切り開いた最大の転換点であったと言えたら最高だ。

     最後にリテイル業界に関わる私達は「消費、そして地域を元気にする」という視点を忘れてはいけない。コロナショックの一番の特効薬は、日本の消費が元気でいることそれ自体にある。現在の日本では外出が減ったり、地域に暮らす人々の顔もどことなく暗い。このまま小売店、メーカーそして、消費者がネガティブに捉えてしまうと、消費に元気がなくなってしまい、日本経済の不況が長期化してしまう。今こそ、小売とメーカーが手を取り合って、日本のピンチを救うヒーローになるべき時である。アフターコロナを見据え、今こそ次の小売の変革に向けて動き出そう。そして、出かけたくなる、買いたくなる世界を、一緒に実現していければと思う。

     

    つつみ・ふじなり
    新卒で電通に入社し、コピーライター、デジタルプランナーとして、様々な小売・メーカーの店頭プロモーションやブランディング、人工知能を活用した新規事業などを担当。その後マレーシアのELM Graduate Schoolにて、MBA(経営学修士)取得。現在は「消費、そして地域を元気にする」をミッションに小売業界のデジタル革新を担う株式会社フェズに転職し、クリエイティブ・ディレクションと広報に従事。オランダ在住のリモートワーカーとして、EU圏からアジア圏まで、海外リテイルのトレンドについてもリサーチを進めている。

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