ユニクロが強い。このままいけば、また最高益を更新する勢いだ。ユニクロの強さを分析している人が挙げる理由として「ベーシックな衣料品が多いため在庫の寿命が長い」「規模が大きいから、規模の経済が効いて単価が安い」「海外と直接取引をおこなって商社をはずしているから価格が安い」、などである。どれも、「ユニクロの強さ」を単純化しているが、こうした分析には決定的な間違いがある。それは、「では、なぜ、同じことをやらないのか(やれないのか)?」という素朴な疑問である。
私は商売柄、「ユニクロに代わる日本のアパレルはどこだ?」「次にどこが有望だ?」と聞かれることが多いのだが、私の答えは「ユニクロの強さは盤石で10年程度で抜くアパレルは日本からは生まれない」というものだ。しかし、だからといって戦略的に勝っているアパレルがないというわけではない。今日はそのことについて説明したい。

「強さ」は規模だけではない
小さな勝ち組はいくつもいる
ユニクロの強さは盤石だというと、「ではなぜユニクロだけが一人勝ちできるのか説明せよ」という質問が次に来る。だが、ここで重要なことは、「強さ」とは規模だけではないということだ。
ハーバード大学マイケル・ポーター教授の戦略分類では、「コストリーダーシップ」「差別化」「集中化」の3つがあるとなっているが、差別化、集中化の2つはコストリーダーシップより規模が圧倒的に小さくなる。この3つのセグメントのどこかにポジションを置くのが戦略だとしたら、日本のアパレルは差別化、集中化のどちらかに身を寄せ、コストリーダーシップはユニクロに採られているということになる。つまり、売上規模がでかくなくとも、十分戦略的には正しいし、勝ち組と呼ぶに相応しいアパレルが数多く存在するのだ。売上規模だけで勝ち負けを論ずるのは、誤りだということがお分かりだろうか。
「コストリーダーシップ」というのは、大量の生産を行い規模の経済を効かせてコストを安くし、低価格で安価品を売るポジショニングである。ここにいるSPAアパレルは、ユニクロ、ZARA、SHEIN(シーイン)などだ。この3社(ブランド)はともに売上2兆円を超えているが、その戦略に微妙な違いがある。
ユニクロはみなさんご存じの通り。ZARAは商品の高回転で、在庫はすべて本国に置き、余剰在庫が存在しない。店舗に飾っている商品だけが保有する店内在庫で、次々と新製品が投入され、余剰在庫はもたない。SHEINはほぼ100%ECで販売し、リアル店舗は日本の東京と大阪の2つだけだが、これらは店舗というよりショールームといった方が正しく、決して売上を上げるためにつくったものではない。
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ユニクロと戦略的に競争しないアパレル企業は?

次に「差別化」だが、日本のアパレルはユニクロのベーシック衣料に対して「ファッション衣料」を投入して差別化をしようとしている。しかし、ファッション品はZARAに価格で負け、実際に売れているのはファッション品の中にうもれたベーシック衣料品だから、ユニクロと“ガチ勝負”になってしまう。
そう考えると、本来的に差別化ができているのは、セレクトショップぐらいだろうということになる。セレクトショップは世界から売れ筋の商品を集め、日本では企画できないような面白い商品を店頭に出している。だから、ユニクロとは“戦略的に競争していない”(うまく競争戦略ができている)のは、セレクトショップなのだが、このセレクトショップには規模を追求できない事情がある。
というのも、セレクトショップは店頭に商品が並ぶ半年前に欧州に商品を買い付けに行く。半年先の売れ行きのことなど誰もわからない。わからないから、根拠もなく売れると思って大量に買い付けを行うのはリスクがある。だから思い切って販売できない。この長い納期がセレクトショップを小規模アパレルにしているわけだ。したがって、セレクトショップは売上勝負には負けているが、戦略的ポジションでは勝っているともいえる。
最後に「集中化」であるが、帽子、下着、靴、靴下、肌着などはみな専門店でそれらのアイテムに集中している。これらは、帽子、下着、靴、靴下、肌着以外の商品はつくらず、日本のシェアを、いや、世界のシェアを奪っている。例えば、女性下着のワコールなどは世界一といってよい戦い方をしているが、女性のアンダーウエアのニーズが単純計算で人口の半分しかなく、日本では頭角を現しにくいが、世界でもトップクラスの売上を誇っている。ユニクロとワコールを比べるのはりんごとオレンジを比較するようなもので、正しい比較とはいえない。
このように、ひとたび「売上」という言葉を外せばユニクロと戦略的競争をしている会社は山のようにある。ユニクロが注目されたのは、アパレルでコストリーダーシップポジションをしっかり握ったからである。
最後に、コストリーダーシップをとるには、世界をマーケットにしなければならない。日本だけで販売してコストリーダーシップをポジショニングするのは極めて難しいだろう。その意味でも、この10年でユニクロを(売上で)抜くアパレルはいないだろう。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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