参入多いが難しいアパレルの多角化戦略、成功の秘訣は?

河合 拓 (FPT Consulting Japan Managing Director)

その事業に「強み」は生かされているか?
多角化のセオリーとは

 さて、価格競争は会社の体力をズルズルと蝕んでゆく。そこで、「モノからコトへ」と、カフェ事業に打って出るとしよう。その企業の強みは服好きの販売員が多く、商品説明からコーディネートのアドバイスまで「さすがプロ」というぐらい上手で、お客様が販売員と仲良くなるのがこの企業の強みだったとする。

 ちょうどスターバックスコーヒーの販売員のように、「自分の言葉」で接客ができるのは、服もカフェも同じだからだ。

 一方、多角化には絶対守らねばならない約束ごとがある。それは、その企業の「強みがいかされているか否か」ということである。

 アパレルとカフェは一見相性がよいため、強みである販売員の接客をカフェ事業にも生かすため、自社の販売員をカフェ事業のウエイター、ウエイトレスにしたところ、これが全くうまくいかない。

 なぜ「強み」を生かせているはずなのに、うまくいかないのか? とその企業は悩んでいたようだった。

 よく分析してみると、確かに「強み」は「販売員の接客力」にあったのだが、商品知識や服に対する愛情と同じぐらいの愛情をカフェに対してもっていないため、強みが店内で打ち消されてしまったという結論になった。もし、「服への愛情トーク」と同水準の接客トークをカフェでもできていれば、その企業のカフェ事業は成功していただろう。しかし、アパレルとカフェではあまりにも違う。

 私は、こういうケースでは、アパレル企業の特長であるVMDの技術を活用して、店内空間にテーマ性を持たせ、付加価値を高める空間づくりを行うのが良いと思う。きっと、アパレルで鍛えたおしゃれな店内空間や面白い出来栄えの商品ができるだろうし、その「センス」がお客を呼び込むことに一役買うだろう。

 また、もっとダイナミックにするなら「旅行」にブランドネームをつけ、そのブランドが参考にしているペルソナになったつもりで、世界の旅を提案する、という旅行ブランドを創設するのはどうだろうか。そのブランドが好きな人なら「どうせ旅行に行くなら、このブランドの世界観をもっと味わいたい」と思うに違いない。

 さらに、これからはアパレル企業も、リフォーム事業への進出をもっと積極的に進めるべきだ。数年前までいくつかの企業がリフォーム事業をやっていたが、今は残念ながらしぼんでしまった。聞けば、ブランドネームだけを貸して、リフォーム会社に丸投げしていたようだ。それでは、空間に魂が込められるということがない。

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記事執筆者

河合 拓 / FPT Consulting Japan Managing Director

Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はDX戦略などアパレル産業以外に業務を拡大


著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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