参入多いが難しいアパレルの多角化戦略、成功の秘訣は?

河合 拓 (FPT Consulting Japan Managing Director)

強みとは「相対的」なもの
企画力が強いという自己評価はあてにならない

tadamichi/istock
tadamichi/istock

 仕事中の話である。私達はチームで、あるアパレル企業向けの提案書を作成していた。そのクライアント候補は「自社の強みは製造機能を自社で持っているところにある!」と公言していたため、私達チームはなんの疑いもなく、強みは製造機能と書いてSWOT分析をはじめていた。

 ここで私は、「自己評価をそのまま信じて分析を進めて良いのか」と違和感を覚え、改めて「強み」とは何なのかを考えてみた。

 例えば、アパレル企業に話を聞くと、「当社の強みは企画力にある」という会社が多い。企画力が強いと商品が良くなるわけだが、ほとんどの企業が企画力といっても、商社や工場がもってきたサンプルを修正して新しいデザインとして売っているだけだ。消費者調査をすればすぐに分かるのだが、競争はほとんどのケースにおいて「価格」が大きな影響力を持っており、ポイント5倍、50%オフなどの理由で選択購買をしている。今、服を定価で買う人の方が少ないのだ。

 念のために、そのブランドの服を買っているお客様にインタビューをしたところ、やはり「安くなっているから」「ポイントが5倍だから」などがその購買理由で、「競争は相対的であり、自己申告の強みは信じてはいけない」ということをチームのメンバーは理解したようだった。

 そのアパレル企業が店を出しているエリアにあるいくつかの店と比較して、似たような服(今は、ほとんどが似たような服を販売している)で「どのぐらいお買い得なのか」で勝負が決まる。

 単品勝負では、ユニクロにかなうアパレル企業は存在しないと考えるべきだ。そしてユニクロでは扱っていない、デザイン物は価格が安い方を選んでいる。これが、いまの消費者のお買い物の流儀なのだ。

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記事執筆者

河合 拓 / FPT Consulting Japan Managing Director

Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はDX戦略などアパレル産業以外に業務を拡大


著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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