ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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販売の現場ではなく、川上重視
そんなアパレルが下す決断

AndreyPopov/istock
AndreyPopov/istock

 ここで、モールとテナントの関係を整理する上で、まずはその前提となるアパレル側の変遷から解説したい。

 古くは「SPA」を誤解し、「自社で商品をつくることがSPAだ」と誰かが言い出したことで、アパレル企業各社がこぞって「SPAにすれば勝てるのだ」とばかりに、商社を活用して自社レーベルの服をどんどん量産していった。

 当たり前だが、自社で商品を作ろうが他社の商品を売ろうが、良いものは売れるし、良くないものは売れない。そんな簡単な理屈さえ忘れてしまうほど「SPA万能論」に心酔したアパレル業界は「川上」へと上っていった。しかし、川上(原料、糸、縫製など)の世界は販売という「アバウト」な世界と異なる、「科学」の世界である。

 そうした川上の世界の「深さ」を知ることなく、表面的に川上の業務をなぞっただけで、「完全にSPAを知り尽くした」顔をするアパレル関係者が続出していった。

 その後も、中途半端な知識のまま「川上」だけをみるようになり、アパレルの生命線である「販売の現場」をないがしろにしていったのだ。

  ECモールへの出店は、競争のなかで売上を得る代わりに顧客データを渡すこと

 こうなってしまうとアパレル企業の「優位性」などなくなってしまう。だから、売場から発生して「ものつくり」として川上に上っていった「アパレル小売業」に業績で抜かれていったのである。

 その後は、川上にのぼっていったアパレルメーカーで成功を収めたのはオンワード樫山ぐらいで、残りの勝ち組はほぼ「売場」=川下から上がっていったSPAアパレルになってしまった。

 こうなると、店舗を展開していながらも自社の意識はほぼ「アパレル企業=メーカー」となってしまう。

 そうしたなかで効率的な販売の手段を考えると、結局、ZOZOTOWNに行きつく。ZOZOTOWNに出品すれば、自社でECを持つよりもずっと少ない初期投資で、それなりに高い売上を上げることができる。自社でECを持つには「顧客ベース」が充実していないと満足にそこを訪れるお客すらいないのだが、ZOZOTOWNの保有する「顧客のバケツ」は膨大だから、「そこから取り放題だ!」と思ってしまう。思慮の浅いビジネスパーソンは「それなら、ZOZOTOWNに出店しよう」となるわけだ。

 一方、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、ZOZOには出店していない。彼らは一部の例外を除いて、ほとんどが自社ECである。安易にモールに出品すると、自社目当てで訪れる顧客データ(クレジットカード情報や住所、名前、性別などのデータがすべて)をすべてオンラインモールにささげることになる。とくに「ユニクロ」のような強力なブランドであれば、顧客ベースも膨大だから、ZOZOに集客を頼る必要もないから、自社の顧客データをZOZOTOWNに与えてしまうだけだ。だからファーストリテイリングはZOZOTOWNに出店しないのである。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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