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ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは

RIZAPグループ傘下でアパレルECを行う夢展望が、海外展開の強化を目的に、激安ECショッピングモール「Temu(テム)」と連携、まずはTemuが展開する日本向けサイトで主力ブランド「DearMyLove」を中心に販売を展開していくことを発表した。
Temuといえば、米国でShein(シーイン)を売上で追い抜いた中華モンスター企業である。その強さの秘訣は「激(げき)」がつくほどのディスカウンターであること。iPhoneケースが399円、スニーカーが2399円と、競合他社が近づけないほどの安さで圧倒している。一方、夢展望は、ワンピースドレスが1万円近くと、ややTemuと比べると価格帯も異なり、割高感を感じる。しかし、この連携発表後、夢展望の株価は1.8倍近く上がっており、株式市場からは好感を持って受け入れられたようだ。この両者の連携の未来を予想してみたい。

大阪のスタートアップから急成長、そしてIPO

 私と夢展望の出会いは古い。まだ、夢展望が創業期の時にさかのぼる。夢展望より連絡をもらい、コンサルティングを行った。当時の夢展望は、創業者の岡隆宏氏(当時は社長)がビデオのレンタルビジネスを始めて成功し、当時の専務(岡社長の奥様)の天才的なVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)で「ギャル・ブランド」の総本山ともいえるポジションを獲得、それを強固なものにしていた。

 この岡専務の経歴が面白い。もともと、事務職をやっていたのだが、趣味で写真や絵の加工をしていたところ、夢展望のVMDに非常に高い付加価値を与えたのである。岡専務は、「通販は写真が命。例えば、この写真の背景の星マークのキラキラがなければ売上は半減する」「この写真はまつげが短いので長くする」など、徹底的なこだわりを写真に注ぎ込み、独特の世界観を作り上げていった。当時の夢展望のサイトをみれば、「圧巻」という言葉がもっとも適切だった。当時、「香港マダム」という追随企業がいたが、夢展望の足下にも及ばなかった。

 夢展望は、写真をもっとも大事にするため、狭いオフィスの中に自社スタジオをつくり、本社でモデルの撮影を自前で行っていた。多くの通販が写真を外注化しているにもかかわらず、夢展望、写真だけは「自分達の命」とばかりに守ってきたわけだ。その結果、「10%のヘビーユーザーが90%の売上を上げる」という、恐ろしいほどの顧客ロイヤルティがあり、このヘビーユーザーが売上を加速させIPO(新規株式公開)を勝ち取ったのだ。

 

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顧客の拡散が裏目に、そしてライザップ傘下に

 その後、ギャル市場が縮小する中、さらなる顧客をもとめ、シルエットをもっと普段使いできるようマイルドにしたブランドをいくつか出したが、そのどれも思うように伸びなかったと思う。私達経営戦略に精通した人間であれば、「選択と集中」「絞り込み」が勝利の一歩と考えるのだが、夢展望は「違うラインをだせば、違う顧客を獲得できる」と考えた。その結果、見事IPOを果たしたものの、他の通販サイトと変わらないブランドができあがり、ブランドの個性がどんどん薄れてしまったと私は感じている。結果、上場で得られた資金のほとんどを使い果たしてしまい、2015年にRIZAPグループ(当時の社名は健康コーポレーション)入りすることになる。

 私は、幾度も岡社長に会って、「創業時の勝ちパターンを思い出してほしい」「あの強烈なギャル・ブランドを復活させたほうがよい」と進言したのだが、すでに現場を離れた岡社長にとって、私の助言は右から左へと流された格好となった。

 その後、機会があってRIZAPグループの瀬戸健社長にお合いするチャンスがあり、そうした歴史を語ったことがある。

 当時のRIZAPは夢展望の他にいくつかアパレル企業を傘下に持っていたものの、そのどれもがうまくいっているとは言えない状況だったため、ワールド出身者による改革チームをつくり、アパレル企業の立て直しを行っているところだった。そのワールド出身の人たちは、私の報告書を読み「その通りなんです」と同意してくれたが、思い切った行動には移せなかったようだ。

 その後も夢展望の業績は浮上しないまま、2期連続の営業赤字が続く中での今回のTemuとの事業提携である。同社は現在、フリフリのガーリーラインに路線を変更したようだ。その意味では個性は出ているが、こういう服を欲しがる層は多くはないのが実情だ。

日本のTemuで販売後、「いきなり海外」は通用するのだろうか?

 私は、最初「Temu」と聞いて「なるほど」と思ったものの、同時に「大丈夫だろうか」と疑心暗鬼にもなった。確かに、Temuの流通を使えば、それなりに「流れ弾」にあたり、売上は伸びるだろう。その意味では、投資家の期待=「株価の上昇」は正しいといえる。

 しかし、良い意味でせっかく個性がでてきた夢展望が、「Temuのような一般通販と馴染むだろうか」という点が一つ。もうひとつは、価格帯であるが、夢展望の価格帯は私がやっていたときとくらべて相当高くなっている。Temuといえば、激安ディスカウンターだ。だから、消費者も買うしTemuも自社のアパレル部門に組み込めるわけだ。Temuのアパレルラインは無個性で欲しいものを探すのが一苦労だが、女性向けワンピースが3000円でスーツが5000円と夢展望より安い。

 また、夢展望はTemuが展開する日本向けサイトを皮切りに、世界市場に打って出る戦略を打ち出している(海外展開の強化とブランド保護がTemuとの連携の目的)が、まずは日本でブレークする方が先ではないだろうか。

 なぜなら今、世界は中国企業が席巻し、ギャル・ブランドは韓国のお家芸であるし、ガーリー系のブランドは海外で売れるかどうか未知数だからだ。ただ、急増するインバウンド客が秋葉原に行って、アニメ、漫画などのジャパン・カルチャーを謳歌しているのをみると、海外でこのラインは一定数の顧客を獲得できるかもしれない。その意味では、不安が勝るものの、可能性もあるということだ。

 いずれにせよ、日本は人口減少によって市場としての魅力はますますなくなっており、また、物価の高騰により高価な服が売れなくなっている。各社各様戦い方は違えど、夢展望のように、世界に目を向け始めたのはよいことだ。

 

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
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