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利益5000億円越え!世界で圧巻の強さのユニクロが中国で苦戦する理由とは

ファーストリテイリングの2024年8月期決算が発表された。通期の売上は予想通り、過去最高の売上3兆円を超え、営業利益は5000億円を超えて過去最高益をたたきだした。連結売上収益は3兆1,038億円、営業利益5009億円。業界世界一へ向け、さらに大きく前進した。今回はファーストリテイリングの24年8月期決算説明から、同社の業績を分析したい。

Davslens Photography/istock
Davslens Photography/istock

ユニクロの強さの本質とは

 決算の詳細に入る前に、毎回同社の決算説明を聞いていて「競争優位の本質」が見えてきたので紹介しておきたい。同社の決算説明会では、他のアパレルや小売業からよく出てくる「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」や「EC」の話がほとんどでてこない。ここから、同社にとって「リアル店舗」は非常に大事な存在であることが分かる。

 ユニクロは、リアル店舗で3兆円近い売上をたたき出し、また、巨大なリアル店舗はメディアの役割をしている。また、デジタル化の目的も明確で、多くのアパレルが何にデジタルを使っているのか分からないが、同社は主に人員効率を高めるために使っていると明言している。また、店舗は数より質を重視し、スクラップ&ビルドを今後加速していく。

 ファーストリテイリングは、「個店経営」「現場、現物、現実」という言葉を非常に大切にしているようで、何度もこの言葉を聞いた。SDGsに関しても、最後にチラリと紹介しただけで、やはり本業の売上向上の報告が多かった。同社の決算説明は非常に分かりやすく、同社がなにを目指しているのかが直ぐに分かる。

 前置きはここまでにして、本題に入りたい。

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ユニクロ国内絶好調の理由の1つがインバウンドである理由

 まずは、「国内ユニクロ事業」から。売上高9322億円(前期は8904億円、対前期比13.1%増)で過去最高売上を更新。積極的な出店に加え、同3.2%増となった既存店売上が好調だった。暖冬により上期(9月~2月)は3.4%減となったが、高温に支えられた下期は11.7%増となった。

 同社は、世界中でユニクロのブランドが浸透してきた結果、円安の日本で「インバウンドの消費者が増えた」とも説明している。

 実際、私も中国のアパレル16社に対して、ユニクロの分析を講演した後に、彼らと一緒に銀座のユニクロを見学しにいった。なんでも、「日本の旗艦店へ行きたい」「ユニクロを日本で見たい」ということらしい。ユニクロの名前は確実に海外でブランドになっている。

 国内ユニクロ事業の売上総利益率は、原価率の改善と下期値引き率の改善により2.9ポイント改善し50.8%となった。その一方で、販管費率は人時生産性が大きく改善、売上増収による広告宣伝費比率の低減で0.5ポイント改善となる34.2%となったため、営業利益が大きく改善。営業利益は1558億円で同32.2%増となり、営業利益率は同3.5ポイント改善の16.7%という高い利益率を確保した。

 次に「海外ユニクロ事業」を見てみよう。売上収益17118億円(同19.1%増)、営業利益2834億円(同24.9%増)で2ケタ増収増益、営業利益率は0.8ポイント改善し、大きく利益率を上げた国内ユニクロ事業をなお上回る16.6%となった。

V2images/istock

 同社は3Qまでは中国事業(グレーターチャイナ)で苦戦をしていたが、最後は売上収益6770億円(同9.2%増)、営業利益1048億円(同0.5%増)で大幅増収微増益でまとめた。「ユニクロ」は中国で1兆円の売上を目指している。経済情勢もあり、なかなか思うように進まない中国事業で1兆円をいつ実現できるかが、グループ売上5兆円を達成するうえでカギになるだろうと思う。グレーターチャイナ以外の海外事業である「北米」「欧州」「韓国・東南アジア・インド・豪州」はすべて大幅増収増益で、結果国内ユニクロ事業の倍以上の売上収益を稼ぎ出すに至っている。なお中国事業は既述の通り、円ベースでは営業微増益となったものの現地通貨ベースでは減益で、とくに上期は販売好調だったが、下期は苦戦し大幅減益となった。そこで、ブランディング強化、店舗のスクラップ&ビルドを加速させていく。

 中国市場に目を向けると、経済の悪化もあり消費者は単なる「ブランド」には目もくれず、ブランド品でなくとも縫製がしっかりしているなど、機能性と「コスパ」を見て消費をしている傾向がうかがえる。ユニクロが割高だと考え、敬遠する層も増えているかもしれない。そして、中国では日本のアパレルの競合は存在せず、中国のローカルブランドとの競争が激化している。さらに私達は、「中国人はデカいブランドネームが胸に飾ってある服が売れる」といまだに錯覚しているようだが、中国市場は我々が想像する以上に早く成熟化している。こうした厳しい競争に勝ち抜いた経験を持つ人材をスプリンクラーのように世界に派遣し、ファーストリテイリングは成長のスピードとシンクロナイズさせようと考えている

ユニクロの今後と課題

 柳井正会長兼社長は、決算説明会で「3兆円は通過点として“見えている”」と語った。次は、5兆円を目指し、10兆円までの絵を描いているという。やはり、この会社はこの先も「よりデカく、より高収益」を目指している。そんなファーストリテイリングを待ち受ける最大の課題は「人材」である。これは、柳井氏の発言をはじめ、幾度も繰り返された。国内でユニクロの理念を心から理解し、グローバルで活躍できる「人材」の数と質である。そのような人材をどれだけ採用するか、どうやって育てるか。258月期も増収増益を明言し、また、そうなるだろう。ユニクロが世界一のアパレル企業になる日は近い。

 

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
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