アパレル業界に「世界化」が迫っている。今日は、アパレル企業の変革の手順・注意点について私の経験を書いてみたい。特に、日本で「ターンアラウンド(企業再生)の教科書」といえる書籍はほとんどお目にかかったことがないし、私も何が必要で、なにが不要なのかまとめてみたかった。企業再生のステップと陥りがちな注意点を解説していきたい。今回の内容については、アパレル企業に限ったものではなく、企業改革、企業再生業務全般に言えることなので、業種問わず読んでいただければ幸いだ。
ステップ1 契約・キックオフ
必ず社長が決意表明すること
「キックオフ」といえば、「サッカーの試合開始」というイメージが多いが、企業改革プロジェクトも我々コンサルティング業界では、「キックオフ」という。「キックオフ」の際、企業改革、とくに大規模な改革プロジェクトでは必ず、クライアントの社長が自ら「決意表明」を行うのがルールだ。
以前、社長ではなくCOO(最高執行責任者)か経営戦略担当をプロジェクトオーナーにした例を見たが、メッセージは棒読みで気持ちがこもっておらず、聞いていた社員の多くが居眠りをしていた。
企業改革でコンサルタント(コンサル)を活用する目的はいくつかあるが、「失敗したときの言い訳に使う」ケースも少なくない。もちろん成功したときの手柄は自分のものになる。こういう「サラリーマン的な」ケースは案外多い一方で、コンサル会社としても売上欲しさに「受けてしまう」のがほとんどだ。こういう仕事をするとき、「最後は勝てば良いのだろう」と、大した準備もせずに「火中の栗」を拾いにいって自滅するコンサルも少なくない。
だが、一流の事業改革者は、このような仕事は絶対に受けない。日本を代表するターンアラウンドスペシャリストである三枝匡さんもそう語っていた。
このように「キックオフ」は単なる儀式ではない。社長自身が本プロジェクトにコミットし、その本気度を表す大事な仕事なのである。加えて、ターンアラウンドは、既得権益者から恨みを買うなどどこから弾が飛んでくるか分からない危険な仕事であり、経験者・それも相当のシニアで経験豊富な人材がその実務責任者となるべきだ。
この段階で、ターンアラウンドに不慣れな組織は、「それは隠せ、それは言わない方が良い」と、社員に伝えることと伝えないことを選別しはじめる。「なんだ、誰でもやっているじゃないか」と言われそうだが、よほどの事情がない限り、事業計画の内容については、社員にすべて公開すべきだ。
理由は簡単だ。経営者が思っている以上に社員は会社のことを分かっているからだ。つまり、つまらない隠蔽などは、経営者に対する不信感が増幅するばかりで、全体がマイナスに働くのだ。
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ステップ2 事業計画再設定
事業計画策定者と実行者が違う時、よく起こること
改革のステークホルダーの中に、金融機関が増えてきた。このため、改革のタクトは金融機関が振ることが多くなってきたわけだが、これが時にややこしさを増幅させる。
よくあるのが、デューデリジェンスや再建計画はAコンサルティングで、その計画を実行するのはBコンサルティングという具合に分けて発注するケースだ。「うちは計画をつくった、実行は貴方たちがやってくれ」という具合に業務を分割するのだ。確かに、コンサルのデューデリジェンスが科学的な分析に裏打ちされたもので、論理的に課題の一丁目一番地を解決する計画であれば、その実行段階もスムースにいくだろう。
しかし、私は戦略策定後のバリューアップの仕事が多いのだが、その再建計画および課題解決の手法が“ひどい”ことが少なくない。
例えば、いずれも有名なグローバル・コンサルティングファームが3社、入れ代わり立ち代わりデューデリジェンスに失敗したケースがある。
本来、コンサルティングファームのつくった報告書は競合には見せない約束(不文律)があるのだが、何度も失敗されたクライアントにしてみたら、そうも言っていられない。
そこで重要な部分は隠して見せてもらい、役員との会合の際の議事録などを読むこととなったのだが、その内容が完全にツボを外しているというか、ポイントが見えないのだ。
バラバラと部分的な課題をいくつも挙げ、それに濃淡をつけず、因果関係も分からない。要は、「グローバルマップ」と呼ばれる、大きな目で全体を見たときの課題が見えないのである。
私は改革後のチェンジ・マネジメント(従業員の発想を変えるような支援)が得意だから、改革の実務担当として支援に呼ばれるわけだが、この計画に沿ってやってもうまくいかないので、細かい部分は避けて2度目(実質4度目)のデューデリジェンスを行ってから改革に挑むようにしている。つまり、こんなケースで事業計画の「再」設定が必要となるわけで、これをしないまま進めると悲劇しか起こらない。
企業改革の場合、傷口がどこにあるのか分からない。足が痛いと思ったら、原因は脇腹にあった、などは日常茶飯事だ。だから、因果関係と悪さをしている真因をしっかり見つけられないと改革は失敗する。
ある大手商社では、報告の際、PowerPointは禁止、ExcelをA3サイズで、起承転結でつくるのだが、これなら真因も因果関係もはっきりしていないとまとめることはできない。当然、忙しいエグゼクティブにとって有効な手段だと思う。ここで、事業計画の再設定が行われるというわけである。
実際の改革と改革後のフォローについても近々解説したい。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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