7月13日付の朝日新聞によると、コンビニエンスストアのファミリーマートが、「コンビニエンスウェア」のブランド名で出しているアパレルが好調なことから、アパレル専門店の開発を検討しているという。この業態は、アパレル業界を大きくひっくり返すほどの力を持っていると筆者は見る。今日はその理由と影響力について論じてみたい。
日本のアパレルがユニクロにやられた理由
今から30年前、ユニクロが原宿に第一号店を出したとき、業界人の誰もが「安もののディスカウンターは郊外で販売すべきだ」と考えていた。実際、私が当時所属していたコンサルティング・ファームのリテールセクターでも、「ユニクロの原宿進出は間違いだ」と皆が口をそろえていた。しかし、その結果はどうか。ユニクロは銀座はおろか、日本のアパレルでもだせないニューヨークにも店を出し、「関西のおばちゃんが買う安もの」(当時のユニクロのテレビコマーシャル)というイメージを完全に拭い去り、グローバルブランドになったのはご存じの通りだ。
なぜ、高価なファッション商品でない、ベーシックで必ずしもファッショナブルとは言えないユニクロの服が原宿はおろか、世界の大都市で売れたのか。
そのメカニズムを考えて見よう。実は当時も今も、多くの消費者はインナーやベーシック衣料は、「安物ではないもので、適正価格“が”よい」(“で”ではない)と考えている。
ところが、当時はそのような安いのに品質が良いという機能本位なものは実はなかった。だから、ある程度所得の高い層などはパンツなどの下着から靴下、インナーウエアに至るまで、こだわりのブランドでなければならないと思い込むふしがあった。
しかし、衣料品をアウターとインナーにわけるとしたら、アウターはファッション性、インナーは機能性にすぐれたものを欲しており、インナーウェアは通気性、保湿性、保温性を求めている、ということをユニクロは突き止め、商品を突き詰めたのである。
ユニクロの3つの破壊的イノベーション
私の分析では、ユニクロには「破壊的イノベーション」*と言える商品が3つある。一つは、「ヒートテック」「ブラトップ」そして1万円を切る「カシミヤ100%のセーター」だ。それぞれの説明は私がしなくても誰もが知っているモノだろうが、それら3つをなぜ「破壊的」と呼ぶかと言えば、それら3つの商品は、消費者のライフスタイルを大きく変革したからだ。「カシミヤ100%のセーター」を例にとれば、いままでは高価すぎて誰もがもつものではなかったのを大衆化させ、気軽に着れるものへと変えた。
同じ破壊的イノベーターであるAppleを例にする。同社が少ない商品ラインで、あれだけの高価格を維持しているのは、同社の製品はすべて「新しいライフスタイル」を消費者にイメージ想起させるところにある。決して、部分部分を切り取り、デザインがよいとか使いやすいとかいうチマチマした理由ではない。
*ハーバードビジネススクールの故・クリステンセン教授が「イノベーションのジレンマ」で提唱。これまでのものとは全く異なる大きな影響を持つイノベーションを破壊的イノベーションと呼ぶ
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環境変わり、コンビニ発の衣料品に可能性
ここまでの考察を踏まえたうえで、コンビニの衣料品について考えてみたい。
実は、私は20年ほど前、ある商社から「新規事業としてコンビニで衣料品を売りたいのだが、どうだろうか」と相談されたことがある。私の答えは「ノー」だった。理由は、当時は、ユニクロでも十分安いと認識されており、国民もいまほど貧しくなかったからである。無印良品にしまむらもあり、とてもコンビニが参入する余地などないと私は考えたのだ。しかし、時代は変わった。
当時コンビニは、値段はプロパー(値引きをしない)販売で、家の近くなど「至る所にある利便性」が他の業態と比較した競争優位だった。しかしいまや、そんなコンビニにも無印良品の商品が置かれ(ローソン)、プライベートブランド(PB)販売に力を入れ、価格的にもナショナルブランド以下になってきた。環境が変化し、単なる「利便性」だけでは戦えない時代になったからだ。しかも、コンビニの店舗数は飽和しており、各社なかなか店数を増やせないでいる。
このように世の中の競争環境が変化したわけだから、店舗の役割も変わってくる。キラーアイテムである「お弁当」は当たり前として、銀行ATM、郵便局から住民票自動交付サービスなどにまでその業務範囲を拡大してきた。アパレルの販売もその1つだ。それがコンビニの目的来店動機を増やすことになると同時に、たとえ小さなニーズでも国内1万6000店舗あるから販売力としては強力になるわけだ。
一方、アパレルはどうか。日本での総投入量の半数は売れ残り、それでも翌年は需要の2倍の量を作る。プロパー販売が30-40%程度で、残りのうち10-20%はほとんど半額で値引きされるという状況だ。
アパレル以外のいかなるアイテムでも「成長期」「成熟期」「衰退期」の3つがあり、そのステージによって商品戦略を変えるのだが、アパレルは人類が存在し続ける限り「衰退期」(マイケル・ポーター風にいえば「代替品の脅威」)というものが存在しないのである。
ここにアパレルの特殊性がある。アパレル品は値段を安くするか、本論考で論じたように「服をペラペラ」にするしか改善の方向はなく、その意味で「衰退期」というものが構造上存在しないのである。だから、「原価低減」「産地の南下政策」「デジタル活用による生産性向上」「企画段階のペラペラ化」などしかないわけだ。
そうしたなかで、ユニクロの売価は上がっており、一方国民は貧しくなり「ユニクロを高い」と感じる人たちも増えている(コスパの話ではなく、単純な価格の話だ)。それを踏まえれば、立地や緊急性を背景にさまざまなことが許容される特殊性を持つコンビニで衣料品を販売することは理にかなっている時代になったのだ。
コンビニエンスウェアは“画期的”
成功条件はこれだ
だからコンビニエンスウェアを専門店化してスタートするにはもってこいの時代がきたと言える。ただし、ユニクロがアパレル企業を打ち負かしてきた戦略を実行することが条件だ。つまり、インナーウエアなどのベーシックで「ハレの日」には着ない、来ても変な模様をつけず、プレーンなデザインで色で違いを出すなどである。間違っても、この服で「パリコレ」にでようなどと考えるべきではないだろう。
また、調達サイドを「面倒だ、難しい」といって、商社に丸投げしてはいけない。もちろん、伊藤忠商事の100%子会社だから全面的なバックアップを受けているわけだが、ユニクロが当時行ったように自発的に「このような繊維が欲しい」という要求を東レ、東洋紡、などの合繊メーカーにして、彼らと組んで共同開発すべきである。そして、セレクト品を置かない。自らのブランドをつける。
つまり、私が口を酸っぱくして言っている「SPA」(プライベートブランドのアパレル衣料専門店)という原点に戻るわけだ。コンビニの需要予測、店内カメラによる顧客の動線分析などは、アパレルのVMDとは全く異なるだろうが、そもそもアパレルのファッション的部分を真似しようとしているわけではないのだから、「アパレル一筋30年」とか「西の名門アパレル出身」などの人を招集して「教えてもらう」ようになれば、全滅となるだろう。むしろ、私は、コンビニのシステムにアパレルを載せるとどうなるかというコンビニを主軸にビジネスモデルを構築すべきであると思う。
このように、書くとなかなか難しい技になるわけだが、ユニクロ以外は誰がやっても大儲けできないアパレルビジネスで勝負をかけようとしているわけだから、自分達が気持ちをこめて、消費者のライフスタイルに溶け込むような商品や売り方をコンビニ式でやってもらいたい。
ひょっとしたら、アパレル業界の台風の目となる可能性があると私は見ている。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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