開始約2年で200店体制へ!「鰻の成瀬」急成長の理由と次の一手
低価格を実現するための工夫
同社のもう一つの特徴は、「リーズナブルな価格」と「メニューのシンプルさ」である。看板商品である「うな重」は「梅」が1600円。「竹」が2200円、「松」が2600円と、個人経営店と比べて大幅に安い。山本社長は「事業を始めるときにめざしたのは、ランチだけで売上利益が確保できる“ランチ逃げ切り”の業態。(ウナギであれば)ランチの価格が2000円でも『安い』『コスパがよい』と感じてもらえると思った」と話す。
コストに最も影響する調達では、養殖のニホンウナギを海外から輸入しており、商社を介して養鰻場や加工場との年間契約などを結んでいる。ビジネスの開始から現在に至るまで値上げは一切していないことからも、安定的な調達環境であることがうかがえる。
価格の据え置きが実現できている背景には集客やオペレーションでの工夫もある。
たとえば同社は既存鰻専門店チェーンでは見られなかった広告やSNS(交流サイト)の活用を積極的に実施している。驚くべきは自社サイトのPV数で、2024年3月の月間PV数は65万と同規模の外食チェーンと比べても多い。
「飲食業界では自社サイトを持つ店が少ないため、ブルーオーシャンを意識的に取りに行った。プレスリリースを作成し、メディアに取り上げてもらうことで、流入が増えてPV数がどんどん上がっている」と山本社長は話す。PV数が上がるほど、出店において重要な不動産情報も入るようになり、人材採用も進むというメリットも発生しているという。
さらにSNSでは「ファンづくり」を意識しているという。山本社長はX(旧ツイッター)に1号店「横浜本店」の売上を毎日投稿し、公開している。売上の変動を目の当たりにすることで、フォロワーや閲覧者には「応援したい、食べてみたい」という気持ちが生まれるというわけだ。
また、メニューのシンプルさはオペレーションのシンプルさと比例する。人材難の中、メニュー数を増やさず、オペレーションを極力シンプルにすることで、スタッフの負担が軽くなり、雇用や定着率を維持できるという社長の哲学も具現化されている。
生ドーナツのFC展開を準備中!
運営元のフランチャイズビジネスインキュベーションでは、来年夏までに47都道府県全域で店舗網を300店に拡大する計画で、国内出店の勢いは今後も続いていく。ただし「すべての店舗が長続きできる態勢を維持するため、300店でいったん出店は抑制し、既存店の業績の検証をしてみたい」と山本社長は話す。一方の海外は6月に香港、フィリピンに出店しており、その他の国からもオファーがあるという。
そのような中、山本社長が新ビジネスとして着目し、準備を進めているのが生ドーナツのフランチャイズ展開だ。「ウナギは夏に強く、冬に消費が落ち着く傾向にあるが、ドーナツにはその逆の傾向がある。特性の異なる商材を扱うことで、人材の併用やオペレーションの横展開など、同社が培ってきたリソースを生かすことができるのではないか」と山本社長は話す。