今回のテーマは、アングルをやや変えて「コンサルティング」についてだ。コンサルティングに関しては、昨今のデジタル化も踏まえ、ようやくアパレル産業でも自然に活用するようになってきた。しかし、まだまだ多くの誤解があるのも事実だ。なかなか表にでないコンサルティング業界の仕組みだが、私は極めてフェアなビジネスモデルであると思っており、今日はそのことを「価格」「リソース」「成果」の3つにわけて説明したい。
コンサルの価格体系はどのように決まるのか?
コンサルティング・ビジネスで最も腑に落ちないといわれているのが価格である。多くの人はこのようにいう。「自分は1ヶ月に数十万円しかもらえないのに、なぜ、自分より能力も下の人間に何百万円も払うのか」と。この“もやもや”はIT開発をするSIerでも基本的には変わらない。
この考えに大きく抜けているのは、コンサルティングはあくまでもB2B(会社対会社)ビジネスであるということだ。個人の派遣業ではない。人件費と比較するのが間違っているのだ。
コンサルティング・ファームでは人材育成に大きな投資を行い、また、厳しい「アップオアアウト」(昇進せよ、さもなければ去れ)のルールにさらされ、納期遅れや品質不良は絶対に許されない。また、パフォーマンスがクライアントの期待値に満たないときは他の人員と交代させられることもあるし、本来8時間/日のチャージを超えて残業する場合もある。
一方コンサルティング会社から見た場合の原価は人件費である。例えば、月収100万円のコンサルが3人投入された場合、そのコンサルタントが週の稼働日(月曜日から金曜日の5日間)の60%、つまり3日をすべてA社のために使い、残る2日をB社のために使うとする。
その場合、月間の原価は100万 × 60% =60万円だが、実際にはここにその他人件費として40%ほど乗せる必要があるので60万円 × 1.4 (その他人件費)=84万円、が対A社のコンサルタント1人の月間原価になる。
ここで、粗利率を40%とした場合(これらの数字は分かりやすくするためのもので、実数ではない。実数は各ファームによって違うので、あくまでも考え方を参考にしてもらいたい)、金額は1人当たり140万円となり、3名投入すると、合計420万円となるわけだ。コンサルティング・ファームとてオフィスはあるし、PCなどのデジタル機器も実装されている。販管費も当然かかるわけで、残る営業利益は微々たるものだ。
さらに、コンサルタント会社にとって死活問題となるのは、工場と同様に「稼働率」である。月収100万円の人員が年間通してアイドルタイムなくずっと稼働していれば、粗利益率は大きく引き下げても成立するのだがそうもいかない。通年の平均稼働率は、戦略系で70%、IT系で90%ぐらいで、非稼働の30%と10%は、すべてコンサルティング・ファームのコストになる。したがって、そのファームの「売る力」(稼働率)にあわせて粗利率を設定しなければ赤字になってしまうわけだ。
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価格を値切ると品質が下がる!簡単なカラクリ
昨今のファームは、厳しく収益管理をし、サービス残業もできなくなってきている。月収100万円の人間が3名必要なプロジェクトで、クライアント側が「354万円が高いから300万円にまけろ」といったケースを考えてみたい。
コストを15%引き下げろという要請だが、この場合、人数かコンサルタントのランクを落とすかしかなくない。
コンサルタントは、その実力によってランク付けされており、100万円の人員だとコストに見合わないのであれば、月収85万円ランクのコンサルにチェンジするか、週に3日かかる仕事を週に2日でやってしまうかのいずれかとなってしまう。
どうだろう。考えて見ただけで恐ろしいとは思わないだろうか。値切る方は、「コンサルティングフィーなどいい加減なんだからどんどん値切れ」ぐらいに考えているのかもしれないが、内部(コンサル側)ではランクを落とすか稼働日数を落とすかのいずれかをやって、帳尻を合わせざるを得ないのだ。そうなると、仕事が前にすすまない(質の低下)、仕事が雑になる(量の低下)のいずれかになり、プロジェクトがうまくいかなくなるのである。
コンサルの成果に対する批判
コンサルティングに対する批判で次に多いのは「成果」である。「コンサルに頼んだが成果が出ない」という文句だ。しかし、コンサルとクライアントとの関係は医者と患者との関係によく似ている。私も10年ほど前に大病を患い病院に長期入院した経験があるのだが、どんどん病状が悪くなっているのは患者にそもそも直そうという意志がないケースである。
実はこういう状態のクライアントがコンサルを使っても成果は出にくい。むしろ、自分達がグイグイ引っ張り成果を出す気概をもった本部チームが、サポート役としてコンサルを入れるのがもっともバランスが良い。
主従が逆になって、コンサルがプロジェクトを引っ張り、クライアントが「どこかおかしいな」と思いながらも、「先生の言うことだからとりあえず聞いておこう」となるとプロジェクトは破綻する可能性が高くなる。
よくいわれる「分厚い報告書が倉庫からでてきた。ゴミ箱からコンサルのつくったレポートがでてきた」などといわれるのがこのパターンだ。
逆に、コンサルの言うことを一から百まで全部否定し「俺の方が現場がわかっているし、頭がよいのだ」と言わんばかりのクライアントも中にはいて、こうした場合は、一切プロジェクトが前に進まなくなる。
まちがってはいけないのは、コンサルは決してクライアントより頭が良いわけではないということだ。
では、コンサルの価値はどこにあるのか?それは、数多くのクライアントとプロジェクトをした経験から得られる失敗や成功のパターン・データベースが豊富なことだ。その道のプロフェッショナルがファームにいて、必要に応じてヘルプしてくれることなどである。もちろん、一定量の地頭の良さは求められる業界ではあるが、私達とて同じ人間だ。あくまでもチームプレイで勝負をすることになる。だからこそ、プライスを値切ることがプロジェクトの品質を落とすことになるわけなのである。
さて、今日はコンサルタントの裏事情を赤裸々に語り、決して私達はイカサマをしているわけでもなければ、適当なことをいっているわけでもないことを述べてきた。特に、グローバル・ファームと呼ばれる有名なコンサルティングファームであればなおさらだ。
厳しいプロフェッショナリズムで自らを律し、時間でチャージをするも、メンタル的には成果でチャージをする気概を持ち、どれほど難しい難題であっても諦めず、クライアントを尊重して前に進んでゆく。一寸先が見えない今だからこそ、コンサルタントとともに高い業績をあげていただきたいと心より思う。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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