ワークマンが子供服市場に参入するという。子供服というのは、非常に難しく、また特別だ。本日は、子供服市場の攻略方法とワークマンの子供服 workman kids(ワークマンキッズ)の行方についてうらなってみたい。なお、大体2~5歳ぐらいの幼児を「トドラー」とよび。 0歳~2歳までを「ベビー」、5歳~8歳までを「キッズ」と呼ぶ。この8200億円市場はワークマンは攻略することができるのだろうか?
6ポケットと子供服
子供服というのは、「6ポケット(シックスポケット)」と呼ばれ、子供の両親で2人、親それぞれの両親がそれぞれ2人ずつの4人で、合計6人の財布からお金がでる、典型的な商品だ。
したがって、特に高齢者である祖父母は、自分の孫に与える服を百貨店で買うことを好み、今でも百貨店で子供服を買うのだ。子供服が百貨店に強いのはそれが原因である。
購買に至るジャーニー(経路)を分析しよう。
まず、祖父母は「この服がよい」というデザイン上のこだわりも持ち合わせていないため、ほぼ百貨店の販売員の「押しの一手」で購買を決める。こだわりがあるとしたら、洗濯しても型崩れしないとか、色落ちしないという決め文句で購買を決定する。
仮に子供(=孫)を連れて買い物したとしても、子供は自分で好き嫌いがハッキリしないため、例えば店の内装が「ピンク」だとか、「ブルー」だとか、全体の色調で店を決め、選ぶときも服についたプリントや刺繍で「これがよい」と言う傾向があるため、最終決定者は祖父、祖母になることが多い。
これに対して、両親が子供に服を買う場合は、子供の成長は速く身長は毎年変わるため、百貨店のような高価な服は着させない。ショッピングモールなどで、安価でデザインも両親の好みのものを購買して子供に着させることが多いのだ。
ここからわかることは、①子供に服を選ぶ決定権はなく、②両親、祖父母の6ポケットからお金がでてきて、③販売員の「押しの一手」と「両親の好み」で子供の服が選ばれるということだ。なお、ある子供服アパレルでは、半分が贈答品となっている。
毎年身長が変わる=毎年着られなくなる特異な商品
そういうわけで、量ベースでは子供服の購買の中心は両親である。
両親は、「子供は毎年身長が変わるので、昨年買った服が着られなくなる」ことをとても残念に感じている。姉と妹というように2人以上の兄弟・姉妹であれば、数年着回すことが可能だが、今は、少子高齢化でカップル一組当たりに2人の子供ができない時代だ(完結出生児数<夫婦の最終的な平均出生子ども数>は1.9人、国立社会保障・人口問題研究所が2021年調査)。
ほぼ全ての親が、「一年で着られなくなる服」と認識して、安価な服を物色する。SDGsの時代だからといっても着られない服を何年ももっていてもしかたない。
「どうせ一年しか着られない服ならば」と、捨ててしまうかメルカリで売るかのいずれかになっている。
メルカリで売るならまだしも、「面倒だ」と捨ててしまうのは、本当にもったいない。しかし、構造的に子供服はそういう運命をたどってしまう。
デザインより機能性重視
今回のワークマンキッズは、6ポケットのうち「両親の財布」を狙ったものだと想定される。
子供は小中学生になると遊び回り服を汚すことが多くなる。したがって、大人のデリケート繊維のようにドライクリーニングマークがついていると、毎回クリーニングにださなければならなくなり、怖くて子供に着せることができなくなる。家でジャブジャブ洗えるものでなければならない。
こういう点から、デザインもさることながら機能性が重視させることになるわけだ。
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製造コストは大人用の服と一緒だが、売価は?
さて、子供服は大人の服よりも大体3割ほど安く販売されている。
その理由について一般の人は、「使っている生地など素材の量が少ないから」だと思っている。
実際、子供服で使用する素材の量は大人の服の5~7割程度なのだが、では製造コストも7掛けなのかというとそんなことはない。実際に工場で生産することになると、大人の服とほぼ変わらないのだ。
考えていただきたい。工場の製造コストというのは、投入した素材をどれぐらいの時間効率で縫製したかで工賃が決まる。工場というのは固定の塊だから、たくさん作れば安くなるし、少ししか作らなければ高くなるのは大人と一緒なのだ。
生地の量など、実はほとんど関係ないのである。
例えば、上代が5000円の子供服があった場合、製造原価は2000~3000円だろう。
この2000~3000円の製造原価の服を6000~7000円で売るのが大人向けで、「売価」でコントロールしているわけだ。製造原価が安くなるわけではない。
一方、子供服は、見た目が大人服に比べて小さいため、上代を大人の服よりも安価に見せなければ、消費者は納得しない。だから、あえて7掛け程度で値付けをして、プロパー消化率を高めて販売する手法をとっているわけだ。
もちろん、工場に協力要請をして、工場の利益を削ってもらうように頼むこともある。したがって、工場も子供服を作るのはできるだけ辞めたいというのは本音だろう。
しかし、「8200億円」という規模の子供服市場はハッキリ存在する。ここを狙っていかないのは、もったいないということで各社アパレルは子供服に手をだすわけだ。
ワークマンは子供服市場で勝てるのか?
さて、ここまで子供服の市場特性や規模を考察してみると、ワークマンの子供服は、「安い」「機能性が高い」「評価損金計上までの時間が長い」など、「子供服の勝ちパターン」に沿っていることがわかる。
したがって、ワークマンの子供服は成功するだろう。これが、私の分析だ。
ワークマンの株価は下落を続けており、過剰な期待値が元にもどっていると読むのか、将来を案じた傾向と読むのか意見は分かれるところだが、少なくともワークマンキッズは成功の要因をすべて包含しているのは事実だ。
もし、ワークマンキッズに穴があるとしたら、すでに少子化の日本でレッドオーシャンと化している子供服市場の激戦区に後発で参入して、アパレル同士の潰し合いで勝てるかどうかだろう。
日本のアパレルも先にあげたような分析はすでにやっているだろうし、ワークマンの主戦場であるショッピングモールには雨後の竹の子のように子供服売場が乱立している。この中でいかに頭角を現し、「キッズもワークマンで」という打ち出しを見せることができるかどうかが、勝敗を決めることになるだろう。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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