SPA企業を養分にする!勝ち組が次々移行する「ノン在庫マッチングビジネス」とは何か?
顧客データの活用が、これからの新業態となる

アパレルビジネスは伝統的に、小売機能と生産機能が分離していた。また、昨今のデジタル化の影響か、事業の論点は商品軸のビジネスモデルから、顧客軸のビジネスモデルに変わってきた。具体的に云えば、いまは商品の動向からMDを組み立てるのでなく顧客の買い回りデータからMDを組み立てるべきなのだ。しかし、多くのアパレル企業は顧客のデータを持っていない。持っていても、活用をしていないか活用できないのである。
これからの時代は、データの質と量が競争優位を決めることになる。その中でも最も重要なのが顧客データだ。顧客データをつかって、徹底してパーソナライズ・ビジネスを行う。例えば、Amazonは、日本で3兆6000億円も売上があるにも関わらず、Amazonのトップページは、「河合拓専用」のページになっている。私の買い回りデータから私の嗜好を分析し、トップページに載せることで私の購買心をくすぐるのだ。これを顧客一人ひとり違った見せ方をしているわけだ。私はカメラが趣味なのだが、例えば、カメラを買うと「新しいレンズがでましたよ」とメールが飛んでくる。
データには、買い回りデータのように動態的なダイナミックデータと、名前や性別のように変わらない(動かない)スタティックなデータの2種類がある。伝統的にアパレル企業やカタログ通販企業は、後者のスタティックなデータを元にRFM分析で顧客に序列をつけていた。しかし、最新の考え方は、前者のダイナミックデータを解析し、セット率や購買頻度などを分析。どんどんレコメンドメールを送るというものだ。「この前、こんな本をお買い上げいただいたので、今回新書がでましたよ」という具合だ。このように、動くデータ(ダイナミックデータ)を徹底して使うことで顧客のデータをどんどん大きなものにしていく。
これからの勝ち組は ノン在庫モデル×ダイナミック顧客データ
今、これはSPAだ、これはアパレルだ、これは小売だ、と業態分類をしているが、もはや業態分類は無駄以外のなにものでもない。
小売が商社を使って製造機能を持つ。工場を持つアパレルが百貨店の中にPOSをいれて、擬似的に製造小売になるなど、バリューチェーンに違いが無くなってきたからだ。また、衣料品だけ扱っていた業態が雑貨や食品を扱うなどMDの幅も拡大してきた。
つまり、縦の拡大(バリューチェーンの垂直統合)と、横の拡大(MDの広がり)から、ほとんど全てのアパレルにおいて、「繊維出身」とか出自の違いを除き、機能的差がなくなってきたのだ。
こうしたことから今の勝ち組企業のビジネスモデルは、違いのなくなったSPAアパレル(在庫リスクをもっているアパレル)を複数モール型ECに集めてプラットフォーム化し、自分は在庫リスクを持たずに預託在庫にして、最終顧客が購買した時点で仕入と出荷・売上を同時に行う「ノン在庫モデル」である。
この「ノン在庫モデル」に、先に論じた「ダイナミック顧客データ」を組みあわせたアパレル専門店が、ZOZO、シーイン、DHOLICなどである。これら「勝ち組企業」は、「SPA万能論」に汚染されたテナントに在庫リスクを持たせ、みずからは在庫を持たず、膨大な顧客データを解析し需要と供給をマッチングさせているのである。
河合拓氏の新刊、大好評発売中!
「知らなきゃいけないアパレルの話 ユニクロ、ZARA、シーイン新3極時代がくる!」
話題騒然のシーインの強さの秘密を解き明かす!!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
河合拓のアパレル改造論2024 の新着記事
-
2025/03/19
日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由_過去反響シリーズ -
2025/03/12
ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ -
2025/02/18
ユニクロと競争せず“正しい”戦略ポジションを取っているアパレルとは -
2025/02/11
「あえて着ない」人が増加中 スーツ業界の復活はあるのか? -
2025/02/04
参入多いが難しいアパレルの多角化戦略、成功の秘訣は? -
2025/01/28
正しいTOC(制約理論)の理解 余剰在庫と欠品が激減する本当の理由!
この連載の一覧はこちら [61記事]
関連記事ランキング
- 2025-11-25ワコールを追い詰めた「三つの革命」
- 2025-12-02HUMAN MADE上場から考えるファッション産業の構造的限界
- 2025-11-27急拡大するリカバリーウエア市場を攻略する
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2025-03-12ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由_過去反響シリーズ
- 2025-11-24間違いだらけのアパレルDX改革、根本から変えるべき「KPIの設計哲学」
- 2025-11-26業態別 主要店舗月次実績=2025年10月度
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2022-04-22ユナイテッドアローズ重松理名誉会長が語る、創業秘話とビームスを立ち上げた理由とは





前の記事
