実録!働かせ方改革(4)「退職強要」事件を教訓に、変われたメーカーのここがスゴい!
社内に包み隠さず公表 公平、正義という価値観が醸成される
その後、社内世論や雰囲気が大きく変わったとは聞かない。それでも、私は好感を持ってこの会社を見ている。「労働者に弱い会社」と突き放せるかもしれないが、今後の労使関係のあるべき姿の1つなのではないだろうか。この事例から私が導いた教訓を述べたい。
①ここがよかった
一定の範囲で非を認めた
通常、会社を辞めるか否かは、社員が自らの意志で決めるものだ。会社として辞めさせるならば、退職を勧める「退職勧奨」をすることがまず必要。本人がそれを拒む場合、次のステップとして「解雇」になる。その場合、常識的には、解雇の種類(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇がある)と理由、日付などを文書に記載のうえ、会社の印鑑を押して本人に渡すという流れとなる。
つまり、社員を辞めさせるためには、法律の範囲できちんとした手続きを得て、社会常識を踏まえることが大前提になる。これらが1つでも欠けているならば、批判、非難を受けても仕方がないのではないだろうか。少なくとも、マトモな会社としては認められないだろう。労政事務所などの調停、あっせんを受けるのはある意味で当然であり、大いに反省すべきことだ。それでも、一定の範囲で非を認め、謝罪した点でこの企業の姿勢は評価できる。
②ここがよかった
社内に包み隠さず公表した
社内に一連の事件を説明したことも大きい。これは、なかなかできることではない。役員会や管理職会議ならばともかく、社内のイントラネットにてアナウンスをする企業は極めて少ない。これが、社内に「公平」「正義」といった価値感を植え付けていく。この風土や文化があるからこそ、働き方改革も進んでいくのである。
従来の労使関係を変えることなく、残業時間を減らしたり、在宅勤務を認めるぐらいでは結局はさほど変わらないだろう。問題の本質は、労使関係にあることを忘れないようにしたい。そこにメスを入れない限り、労働生産性なども上がらないのだから。
神南文弥 (じんなん ぶんや)
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。
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