沈まぬアパレルその5 “脱スーツ量販”、分水嶺に立つ紳士服チェーン

森田 俊一
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業界最大手が商慣習の改革に乗り出す

 紳士服専門店チェーンが現在のような苦境に追い込まれたのは、外部環境の変化ばかりではなさそうである。業界全体に独特の慣習が染み着いていたのも、停滞の一因であると筆者は考える。

 この旧来の商慣習からの脱却を図るべく、いち早く動いたのが青山商事である。同社は2019年10月から、全体のうち8割の商品の表示価格を引き下げ、「新価格への価格改定」を実施している。

 紳士服専門店業界では、お客とのやり取りのなかで価格をその場で下げる「店頭値引き」が横行していた。「えー、もう少し安ければ買ってもいいんだけど」とお客が言えば、店側は「わかりました。それでは、こちらのシャツを一緒に買って下されば、スーツの価格をあと1万円下げましょう」というようなやり取りが一般的にあった。

 青山商事としては、こうした慣習の改革によって「価格の透明化」を図り、スーツ事業の立て直しを図る格好だ。ECの広がりで価格の透明化が進むなか、旧態依然とした価格政策は通用しなくなっている。旧来の商慣習は価格に対する不信感を助長しかねない。そんな危機感もあるのだろう。

新しいビジネスモデルを構築できるか

 職場のカジュアル化、はたまた低価格のイージーオーダーの紳士服専門店チェーンなどの拡大という外部要因もあって、既存のスーツ量販ビジネスの将来は明るくはない。このため紳士服専門店チェーンのあいだでは、アプリと実店舗を融合した新業態の開発や、衣料品とは別の新規事業に乗り出す動きが活発化している。

 たとえば、コナカはオーダースーツブランド「DIFFERENCE(ディファレンス)」を展開中だ。初回だけ店舗で採寸してもらえば、2着目以降はアプリでオーダースーツが作れるという仕組みで、顧客の囲い込みを図るのがねらいだ。

 一方、AOKIホールディングスはエンターテインメント分野に力を入れる。マンガやインターネットが楽しめる複合カフェ「快活CLUB」やカラオケ事業を展開しており、20年3月期通期では、ファッション事業の店舗数が645店(20年3月期上期648店)に対しエンタメ事業が617店(同564店)と、店舗数がほぼ拮抗する見通しだ。20年3月期の通期業績予想では、「エンターテイメント事業」が営業利益の23%程度を占める見込みで、新たな収益柱として順調に育っている。

 紳士服専門店は新しいビジネスモデルを構築することができるのか。それは旧来のスーツ販売という旧来ビジネスの延長線上にあるのか、それともまったく新しい分野になるのか。紳士服専門店チェーン各社は今、分水嶺にいる。

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