実録!働かせ方改革(3)働きやすさアピールで新卒エントリー者を大幅増にした大手小売店
まずは数を集め、定着する仕組みを作れば良い!
今回は働き方改革を意識し、ワーク・ライフ・バランスの「ライフ」に力を入れた採用活動をした結果、入社後、「ワーク」に熱心に取り組む新入社員が少なくなり、退職者が増えているケースと言えよう。一見すると失敗事例に見えるが、私はそのようには思わない。この事例から私が導いた教訓を述べたい。
①ここがよかった
まずは数を集める
新卒にしろ、中途にしろ、採用試験を行ううえでエントリー者数を増やす、いわゆる母集団形成は大切だ。可能な限り、多くの学生を集め、書類選考や面接、筆記などを通じてセレクトするのは間違いではない。入社後の様ざまなリスクを削減するためにも必要なのだ。小さない会社で解雇や退職勧奨、パワハラなどが頻発する理由の1つは、採用試験のハードルが大企業に比べて総じて低いこともあり、問題を抱え込む人が入社するケースが大企業よりは多いことがある。
会社の規模を問わず、採用試験において学生に訴えるセールスポイントは時代や環境の変化にともない、変えていくべきものだ。たとえ、学生に媚びようとも、時代の流れに委ねようとも構わない。まずは数こそが、大切なのだ。エントリー者数が少ないと、採用の精度は確実に下がる。
ここ数年、定着率が多少下がっていたとしても、エントリー者が増えているならば、倍率が通常は高くなり、優れた人材が入社している可能性が高くなっているはずだ。数年で現在の路線を「失敗」と捉えるべきではない。採用試験の成否は、少なくとも5∼10年で見つめるべきだ。
②いまから取り組むこと
定着させる仕組みをつくる
課題は、新入社員を定着させる仕組みが十分にはできていない可能性が高いことだ。そこでまず、共有意識を高め、一体感を感じ取らせるようにしたい。たとえば、人事部が同期会や20代の社員たちで集う懇親会、他部署との交流会、管理職や役員との接点をできるだけ増やすべきだ。人事部などがリードし、強引に言われるほどに仕掛けていきたい。年に10回を超えるほどに頻繁に行いたい。
そして、向かい合う仕組みをつくるのだ。人事部員が手分けして、入社3年以内の社員と1対1の面談(15∼30分)を年に数回は実施しよう。スカイプやテレビ電話会議を通じてでもよい。不満を述べる機会を意識して増やすのだ。上司とは毎日約5分の話し合い、さらに1週間に1度は「1on1(ワン・オン・ワン)ミーティング」の実施を試みたい。上司が「詰める」ような聞き方をするのはタブーで、あくまで聞き役に徹したい。この繰り返しで、少なくとも組織や部署に同化する人たちが増えていくはずだ。
神南文弥 (じんなん ぶんや)
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。
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