ビジネスの価値を決めるのは他でもない顧客である。ビジネスによってその顧客は変わるが、需要者がいない限り供給は成り立たない。小売の場合は、売上の低下という現実が如実に現れ、変化を迫られ、その変化に対応できなければ市場から退出せざるを得ない。需要とは常に社会環境を背景に形成される。では、ショッピングセンター(SC)は変わる需要に対応しているのかについて、今回は考えたい。
時代とニーズの変化で、変わるSCの役割
高度成長期、人口の増加と都市化が進み、人口の集中によりニュータウン建設が加速した。その結果、モータリゼーションの発達と住宅の郊外化によりマーケティングそのものが大きく変わった。消費者は、可処分所得の増加と生活レベルの向上から被服履物への関心も大いに高まり、これらニーズに応えた結果がSC業態の変遷に現れている。
この時代に呼応したGMS(ゼネラルマーチャンダイズストア)がテナントを導入しSCの黎明期を迎え、その後、都市化による街の発展によって若者が集まるファッションビルが全盛時代を迎える。
一方、日本の都市圏では、鉄道を中心とした街づくりが進み、ターミナル型百貨店が登場、駅には駅ビルや「エキナカ」が誕生する。
この消費者の流動を前提に作られた商業施設がコロナ禍で最も影響を受けたわけだが、今後も「トランジット(立ち寄り)型」SCの強みは低下するとはいえ、他の立地に比べればその地位は揺るがないだろう。
SCの業態は、この他、店舗面積・商圏規模で分類したネイバーフット型SC(NSC)、コミュニティ型SC(CSC)、リージョナル型SC(RSC)、スーパーリージョナル型SC(SRSC)があるが、どのような分類にしても、すべてはモノを流す器だったのである。
小売業と不動産業の融合
モノを生産者から消費者に流すためには何らかの媒介機能が必要となる。それが卸売業であり、小売業であり、モノを川上から川下へ流す上でそれぞれが役割を持っている。
当然、小売が最も消費者に近く直接商品を手渡す役割を持つが、ここで必要になったのが店舗であり、その集積体がSCへと進化する。
この段階で、小売とは全く異質な不動産業が介在することになる。それが建物賃貸借契約による店舗形態であり、この形態がエンドユーザーへ商品を受け渡す場所として小売である百貨店をしのぐまでに成長した器がSCだったのである。
言うなればSCとは、「不動産賃貸を使って消費者にモノを届ける仕組み」である。
モノを届ける仕組みを奪われたSCの
次なる役割
しかし、小売には、店舗が介在する以外に訪問販売や通信販売などの無店舗販売が古くからある。テレビショッピングなどメディアが媒介するかたちで成長し、現在はネットを使ってモノを届けるEコマースが大きく伸長、SNSを使った消費者同士の売買もネット技術を使って容易に行えるようになっている。
この変遷は、それまでSCの最も大きな機能だった「モノを消費者に渡す場所」としての役割が大きく低下したことを意味している。
その一方でSCやリアル店舗には、BOPIS(ネットで注文、店舗受け取り)のように販売では無く受け渡し場所としての機能や、D2C企業がショールームや採寸をする場としての役割が増加している。
要は、販売する場としては需要が減少しつつも、商品を受け渡す機能やネット販売の補完としての機能は付加されているわけだ。
リアル店舗を主戦場としていた人にとって、「ECはリアルの補完」と思っていたものが、「リアルがネットの補完」と言われるのは釈然としないと思うが、これも現実である。
そして、SCの賃料形態が売上連動制である限り、リアル店舗の役割が販売から離れていくことは、受け入れがたい現実であるとも思う。
この連載で何回も指摘したが、ビジネスは定義に縛られた途端、衰退に向かう。その定義は自らが作り出し自らを縛る。この不思議なジレンマを払拭しない限り、SCの役割は低下し、生活者の足は遠のく。売上コンシャスで続けていくことはどう考えても無理があることは既に気が付いている。受け入れがたい現実だと思うが、都市化とモータリゼーションが進みネットが無い時代に作られたSCの機能と役割を見直し、仕組みそのものを捨てる覚悟を持つ時期ではないだろうか。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒