アンテナショップ事業が起爆剤 テナント型からFCビジネス化で生まれ変わる近鉄百貨店のいま
収益構造改革でFC事業に舵を切る
この「どさんこプラザ」だが、テナントという形で出店してもらう選択肢もあったはずだ。なぜ、人件費も負担し在庫リスクも負う直営の形を選択したのだろうか。
その背景には、近鉄百貨店が全社的に進めている「収益構造改革」がある。
「百貨店運営においてだんだんとテナント事業の傾向が強まったことが、収益構造に影響を与えていた」と長野氏は語る。テナント事業は安定な収入源として見込める反面、利益率の相場は10 %程度と高くない。
そこで、同社で力を入れているのがフランチャイズ(FC)事業の強化だ。
「フランチャイジーとして自ら店舗運営に携わるのは、リスクもコストも高いが、そのぶん自分たちの創意工夫で付加価値を生み出せるし、売れるだけ利幅も増える。そこに目下チャレンジしている」(長野氏)
「場所貸し」のテナント事業から、百貨店本来の強みである商売、つまり「いいものを仕入れて、売る」に回帰し、社員自らが責任を負いながら、それぞれの店舗で付加価値を生んでいく――この近鉄百貨店のFC事業強化による収益構造改革は着々と進んでいる。
「成城石井」や「ハンズ」をはじめ、2021年4月には台湾の人気セレクトショップ「神農生活」と日本で初のFC契約を締結。2023年春には飲食店を運営する「ベビーフェイス」とFC契約を結び、奈良市の人気レストラン「ベビーフェイス スカイテラス」をあべのハルカス近鉄本店14階のレストランフロアにオープンした。
「どさんこプラザ あべのハルカス店」も、その収益構造改革の流れを受け、近鉄百貨店が自ら「商売」する道を選択した。その結果、同社が長年培ってきたバイイング力や売場の編集力が発揮され、独自性の高い店舗運営が実現している。
同時に、この自らリスクを負って「商売」に注力する姿勢が、「社員の創意工夫を促し、成長機会にもつながっている」と長野氏は語る。
「FC事業に舵を切る、と発表した当初は、社内にも懐疑的な声は少なくなかった。しかし、最近ではこういった新しい業態にチャレンジしたいと積極的に手を上げる社員も増えてきている」(同)