成長に黄信号 生鮮宅配の王者・生協「次の一手」とは!?=日本生協連 嶋田専務
これまで生協は宅配事業が全体の成長をけん引してきた。しかし2019年度に入ってからは屋台骨である宅配事業が前年実績を割り込む月が続いている。この状況をいかにとらえ、今後生協はどのような成長戦略を描くのか。全国の生協の連合会である日本生活協同組合連合会(東京都/本田英一代表理事会長:以下、日本生協連)の嶋田裕之代表理事専務に聞いた。
聞き手=阿部幸治/構成=松岡由希子(フリーランスライター)
消費者は多様なチャネルを使い分ける傾向に
──日本生協連に加盟する65の主要地域生協の供給高(小売企業の商品売上高に相当)を見ると、2019年度は8月までの累計で、宅配事業が対前年同期比0.3%減、店舗事業が同1.9%減。これまで成長を支えてきた宅配事業の失速傾向が続いています。
嶋田 19年度の宅配事業については、例年より長い10連休となったゴールデンウイーク期間が供給高の減少に大きく影響しました。供給高で全国上位の大阪いずみ市民生活協同組合(大阪府/勝山暢夫理事長)が職員の働き方改革の一環として同期間の配送を休業したほか、連休中の遠出などを理由に全国的に商品の受注率が落ち込みました。
加えて、例年より梅雨の期間が長く気温の低い日が続き、飲料やアイスクリームなどの夏用商材が伸び悩んだこともマイナス要因となっています。
しかし、経常剰余金(小売企業の経常利益に相当)では、店舗事業は前期実績を下回っているものの、宅配事業は前期と同等額を確保しています。要因の1つは粗利益率の改善です。特売品を訴求するハイ&ローの価格政策から、付加価値型プライベートブランド(PB)商品の提案をはじめ、商品の価値を訴求する施策へとシフトを進めたことが奏功しています。
──食品小売業界の競争が激しさを増しています。宅配事業の供給高の低迷はその影響を受けていると感じていますか。
嶋田 やはりその影響も大きいと思います。食品小売市場が成熟化する一方で、食品スーパー(SM)はもとより、ドラッグストアやコンビニエンスストアといった異業種が攻勢を強めるとともに、アマゾン(Amazon.com)などのEC専業企業も台頭しています。18年度の全国123の地域生協の組合員数は合計2227万人で前年度より1.8%増加しましたが、組合員1人当たりの月利用高は同0.8%減となっています。このような結果から、実店舗、オンラインともに供給チャネルが多様化するなか、消費者は生協宅配を利用し続けながらも、用途などに応じて複数のチャネルを使い分ける傾向にあると感じています。
今後、食の領域だけで供給高を伸ばし続けるのは限界があるでしょう。そうしたなか、あくまでも食を主軸にしながらも、食事配送や、病院や保育施設での給食サービスなど周辺領域のマーケットを開拓していくことが持続的な成長のために必要だと考えます。
──生鮮ECに参入する企業が増える一方で、イオンリテール(千葉県)の定期宅配「クバリエ」や、アマゾンジャパン(東京都)の生鮮EC「Amazonフレッシュ」などはなかなか事業拡大に至っていません。
嶋田 各社の課題は、最終拠点から消費者の手元に商品を届けるラストワンマイルの部分でしょう。アマゾンジャパンについては商品のピッキングや鮮度管理などにおいて非常に優れた物流センターを有しています。しかし生協のような全国を網羅できる自前の物流ネットワークをこれから構築するのは、人手不足が深刻化するなか困難だと考えられます。