ユニクロ柳井正の失敗の美学

流通ジャーナリスト:森田 俊一
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 野菜と靴で懲りたのだろうか、ユニクロはそれ以降衣料品以外の扱いは慎重となっており、多角化の動きは見られていない。ただ、これらの失敗はいくつかの教訓を残した。それは、失敗しても挑戦することを忘れない柳井氏の経営に対する姿勢につながっている。

 柳井氏は自身の著書の中で「経営者十戒」という教訓をまとめており、その1つに「経営者は常識にとらわれず、柔軟に対処せよ」と記している。

 SPAで衣料品の価格を引き下げに成功した柳井氏は、それまで衣料品流通のあり方を変えたといっても過言ではない。従来の衣料品流通では、アパレルメーカーが百貨店と組んで独自の商慣習をつくり上げていた。百貨店側がアパレルメーカーから商品を仕入れて売れた商品だけ買い取り、残った商品はメーカーに返品可能とする「消化仕入れ」や、メーカーから派遣店員を出してもらい衣料品を販売してもらうシステムはその代表例である。ユニクロが仕掛けたSPAによる価格引き下げは、まさにこれらの商慣習にアンチテーゼを唱えたかたちだ。

 おそらくではあるが、柳井氏は野菜の流通にも疑問を抱いたのだろう。旧来から続く、市場を中心とした商慣習から抜け出せない野菜流通に「常識にとらわれない」という心構えで臨んだのかもしれない。

 野菜や靴のSPAの失敗を教訓としてユニクロは本業の深耕に拍車をかけていく。「ヒートテック」や「ウルトラライトダウン」といった大ヒット商品を次々と生み出し、海外事業にも本格化させており、現在は海外売上高が国内売上高を上回るまでになっている。

 また、柳井氏はこんな言葉を残している。

 「一勝九敗でもいいが、再起不能の失敗はしない」

 ユニクロにとって野菜販売の失敗は一つの転換点になったといえるだろう。

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