再編を繰り返し、現在のヤマダ電機(群馬県)を筆頭とした大手による寡占体制が固まってきたという経緯を持つ家電量販店業界はこのところ無風状態が続いている。家電小売市場が安定して推移するなか、家電量販店各社は新たな収益柱を模索しており、同業同士というよりも異業種を取り込むかたちでの企業買収が増えている。家電量販店同士のさらなる再編は再びあり得るだろうか。
再編よりも新分野の開拓に注力?
調査会社のGfKジャパンによれば、2019年上期の家電およびオフィス向けのIT製品の販売金額は前年をわずかに上回り、通期では前年を2%程度上回ると予測している。家電量販店の市場規模は5~6兆円といわれ、ここ数年は堅調に推移しているが、大きな伸びも見られない状態が続いている。
一時期は、北関東を本拠とする「YKK」(ヤマダ電機、ケーズホールディングス、コジマ)の3社が出店攻勢をかけ、家電量販店の再編を加速させたが、それも今は昔だ。12年にヤマダ電機がベスト電器を、ビックカメラがコジマを買収して以降、家電量販店業界の大型買収は鳴りを潜めている。
“無風状態”が続く中、大手各社は現在、ネット通販をいかに取り込むか。あるいは、家電を核とする新分野の事業をいかに軌道に乗せるかに心血を注いでいる。
ヤマダ電機を例にとって見てみると、同社は現在、既存の家電量販店業態を、住宅販売やリフォームを手がけ、家具・雑貨までが揃う新業態「家電住まいる館」へ転換している。
これを進めるべく、住宅メーカーのエス・バイ・エル(現ヤマダホームズ)を買収して子会社化したり、住宅リフォーム事業のナカヤマ(現ヤマダ電機リフォーム事業部)を吸収合併したりと、着々と体制を整えてきたヤマダ電機。「家電住まいる館」は19年内に100店、20年度末までに300店体制をめざすという。ヤマダ電機の売上高の内訳では、依然として家電販売のボリュームが大きいものの、もはや家電量販店専業ともいえない状況になってきているのだ。
ヤマダ電機ほど明確な業態転換を図っているところはそれほど多くないが、ビックカメラ(東京都)も06年にソフマップ(東京都)と資本業務提携を締結(10年に完全子会社化)した経緯から、中古家電などを取り扱いはじめており、近年は酒類、日用品にまで取り扱いを広げている。また、ノジマ(神奈川県)も携帯電話販売大手のITXを買収するなど多角化を進めている。
アマゾンと同じ土俵に上がりながら、圧倒的に高収益なヨドバシカメラ
一時期、アマゾンを筆頭とするEC勢の急拡大によって、家電量販店業界は再編が活発化するとみられていた。実際、ある時まではヤマダ電機などはアマゾンへの価格対抗に過剰なまでに躍起となり、業績を大きく落とした。だが、家電市場自体の伸び悩みに加え、EC勢との価格競争の沈静化といった要因などもあり、今のところ家電量販店は新分野の開拓によって競争を乗り切ることを最優先事項と考えているようだ。
その一方で、アマゾンと同じ土俵に上がり、ネット通販強化に舵を切ったのがヨドバシカメラ(東京都)だ。「ヨドバシエクストリーム便」という、全品無料かつ即日配送のネット通販サービスを展開。取り扱う商品は家電にとどまらず、食料品や飲料、日用品、書籍とアマゾンの売れ筋と同じカテゴリーを扱い、すでにネット通販の売上高は1212億円と家電量販店最大規模にまで成長している。収益力でも家電業界で圧倒的な存在で、最新の「ダイヤモンド・チェーンストア」9月15日号によれば、同社の当期純利益は対前期比6.9%増の373億円。2位のビックカメラの3倍超という水準である。
これに追随する格好でヤマダ電機も22年3月期までにネット通販の売上高を1000億円に引き上げる計画を明らかにした。日本経済新聞の報道によれば、現在の約300億円(19年3月期実績)から3倍強に高めるという。
国内の家電量販店は今のところ、価格競争を避けながら、各自各様の戦略を進め、“アマゾンエフェクト”により経営破綻が相次いだ米国の家電量販店業界とは状況が違ってきている。ただこの先は消費増税、それに伴う反動減の影響が懸念されるなど予断を許さない状況だ。このところ続く凪状態は、大再編の予兆かーー。(次回へ続く)