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スローガンは「商売人になろう」厳しい環境を人材育成で乗り切る!=ヤマザワ山澤進会長

山形県と宮城県に合計61店舗の食品スーパー(SM)を展開するヤマザワ(山形県/板垣宮雄社長)。2010年3月期の決算(連結)は、売上高が896億2100万円(対前期比1.7%減)、営業利益は22億7200万円(同1.9%増)、経常利益は23億700万円(同1.7%増)、当期純利益は12億800万円(同53%増)と減収増益だった。地盤沈下が著しい東北経済の中で、ヤマザワの勝ち残り策は、商売人の育成にあるという。

聞き手/千田直哉(チェーンストアエイジ)


不要不急商品はなかなか売れない

ヤマザワ代表取締役会長 やまざわ・すすむ。 1930年生まれ。49年、旧制東北薬学専門学校卒業。51年、東北大学工学部卒業。62年、山澤薬局(現:ヤマザワ)入社、代表取締役社長就任。2007年、代表取締役会長就任(現職)。

──2010年3月期の決算は、連結で微減収微増益、単体で減収減益という結果でした。新年度に入ってからの足元の状況はいかがですか?

山澤 東北地方もリーマンショック以降、消費は低迷しています。とくに不要不急のような商品は買い控える傾向が顕著になってきています。この4月、5月も既存店の客数は対前期比5%減、客単価が同3%減、売上高は同7%減というような状況が続いています。

 景気が悪い中で、売上をあげるには、まず安くなければいけません。

 そこで粗利益率を削ってナショナルブランド(NB)で低価格を打ち出すことになり、利益率も下がってしまいます。

 その中でも、利益を稼ぎ出さなければいけませんので、(1)NBの新製品、(2)ニチリウ(日本流通産業:大阪府/大桑?嗣社長)の「くらしモア」のプライベートブランド(PB)、(3)自社で独自に開発したブランド、(4)地域性のある限定商材の4つにはとくに注力しています。

── 一方では、商品を絞り込んでいると聞いています。このねらいは何でしょうか?

山澤 そうですね。バイヤーは、半分はメーカーやベンダーのほうを向いて仕事をしているものなのです。だから、サプライヤーの言いなりになるのではなく、「商品を絞り込め」と話しています。

 たとえば、ヨーグルトをひとつとっても現在、80SKUくらいを展開しています。しかし、それだけ多いと、当社がメーンで扱う商材が何なのかわからなくなってしまいがちです。本来は、各メーカーさんの広告宣伝の投下量や販促強化時期などに気を配りながら、商品構成を変えていく必要があるわけです。

 ところが、そういうメリハリをなかなかつけられないでいるのが実態です。その意味では、とてももどかしい思いをしています。

尊敬されるリーダーになれ

──そうした中で、ヤマザワは「商売人になろう」というスローガンを打ち出しています。

山澤 店舗数や売上規模の拡大に応じて、サラリーマン気質というか官僚主義が顔をのぞかせ始めたという危機意識があったからです。

 たとえばこの6月上旬に臨店すると、ある店舗の青果売場にパパイヤが5ケースも入っていました。何も、この時期に輸入品のパパイヤを積極的に販売する理由はありません。

 とても暑い日が続いていましたので、それよりも、「スイカやメロンを売ったほうがよいのでは」とアドバイスをしたのです。まだスイカは出始めですから、1個丸ごとでは手頃な金額とはいえません。それならば、8つに切って並べればいいだけのことですが、担当者はピンと来ていないようで、平然としています。それで、「何年勤めているのか」と叱りました。

 仕入れやすい商品を仕入れ、売り方にも工夫が感じられないのですから、当社の現状は商売人とはほど遠い存在になっているわけです。

──会長のような商売人になることは相当ハードルが高いのではないですか?

山澤 確かにそうかもしれません。

 でも、当社のグループ企業に粧苑ヤマザワ(山形県)というドラッグストア(DgS)がありますが、1つ15万円もする高額のクリームを20個も売るのです。聞けば、お客さまと店員の強固なつながりの中で売っているというのです。信頼関係と換言してもよいかもしれません。

 実際、店長は500人からのお客さまの名前を覚えており、お客さまを名前で呼ぶようにしているというのです。やればできるものなのですが、同じようなことをSMができているかと言えば必ずしもそうではありません。

 そこでヤマザワでは、笑顔で接客することを目的に「スマイルキャンペーン」を実施しています。毎日接客訓練をすることでスキルの向上を図っているのです。

 商売人はキメの細かい心配りが必要です。急に雨が降ってきたらば、傘を差し出せばいい。荷物が重そうであれば駐車場のクルマまで運んで差し上げればいい。そのくらいの気持ちが必要なのですが、なかなかできていません。

 話はちょっと違うかもしれませんが、最近流行のセルフレジの導入について、私は、「待った」をかけています。SMでも会話を交わし、従業員とお客さまが触れ合う場所が必要だと考えているからです。そして、そういうことの積み重ねが商売人を育成していくのだと思います。

──そういう商売人を育成するために「あこや経営塾」を開催していると聞いています。

山澤 「あこや経営塾」というのは、当社の本部がある山形市あこや町に由来するもので、大学卒業後5年以上経過した希望者約30人を対象にした勉強会です。月1回の開催で、年間7回を実施。すでに4期生を送りだすに至っています。私も講義しますし、昼食をともにして会話を交わし、スキンシップを密にすることで、ヤマザワの経営理念を浸透させていきたいと考えています。

──実際には、どんなことを学んでいるのですか?

山澤 具体的には、“常識”を身につけていくことが中心になります。尺貫法に始まり、流通相関図、商品知識など幅広い分野にわたっていますが、基本は“常識”の習得です。

 目的は「尊敬されるリーダーになること」です。リーダーシップというのは、部下にいかに気持ちよく働いてもらうかですから、そのために上司は尊敬される必要があります。尊敬というのは信頼されるということです。ゆくゆくは、「あこや経営塾」の受講者がそれぞれ、「この人のために頑張る!」と言われるようになってもらいたいところです。

 そして、リーダーシップの延長線上には、LSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)の徹底があります。いくらよい仕組みを構築しても、それを実際に運用する従業員に店長を尊敬し、約束を順守するモラルがなければ、LSPは画餅になってしまうからです。

 商品面では、ケミカル(化学)的に分析することと、サイエンス(科学)的に物事を考える習慣を身につけることをめざしています。

 たとえば、牛肉の場合は、絞めてから1週間くらい熟成させるのが最もおいしい状態なのです。アミノ酸が化学変化を起こして、イノシン酸が多くなったときがピークですから冷蔵庫で保存すると10日後くらいが最もおいしくなるのです。

 畜産部門の強い企業は、そうやって研究して売場の強化を図っているのですが当社では不足していました。こういう“常識”を習得していくことが商売人への道につながります。

青果、総菜、刺身を強化する

──さて、今後の出店計画についてはどうなっていますか?

山澤 過去には5店舗強を出していたこともありましたが、ここ3年間は年間1~2店舗の出店ペースが続いています。10年3月期も、DgS併設の神町店(山形県東根市)と富の中店(山形県山形市)の2店舗の開業にとどまりました。

 ただ、チェーンストアですから、店舗数を増やしていかないことには、なかなかよい経費構造を維持することができませんので、コンスタントに出店していきたいところです。今期は、4月に開業した塩釜中の島店(宮城県塩釜市)と下期にあさひ町店(山形県山形市)の2店舗の出店は決まっていますが、なかなか不動産物件がなくて困っているところです。

──「地域のお客さまに繰り返し来店していただける店づくり」を標榜し、リピーターづくりをずいぶんと唱えています。

山澤 リピーターづくりということを突き詰めて言えば、人気ということになります。人気は集客力ですから、それらを構成する要素は、価格やホスピタリティ、店内環境などさまざまです。しかしながら、お客さまは商品を買い求めていらっしゃるのですから、いちばんの決め手になるのは商品です。

──その商品の強化の方向性はいかに考えていますか?

山澤 出店が思惑どおりに進みませんから、競争力は商品に磨きをかけることを続けてきました。

 青果については、「地産地消」を推進するため、地場野菜コーナーの展開店舗数を拡大するとともに、地域ごとに地元生産者グループと協力し、安全・安心な地元農産物を安定的に仕入れ、販売しています。意見交換会を通して、生産と販売にかかわるさまざまな要望を集約しています。大事なのは、季節の商品をきちっと販売することです。加えて、地域の祭事や催事に合わせて商品をしっかり品揃えるということです。

 また、過去5年以上にわたって、総菜と刺身を強化してきました。これからのSMは総菜と刺身の強さが決め手になると考えているからです。

 総菜の現在の売上構成比率は10%程度ですが、これを15%くらいまでは上げていきたいところです。総菜工場を自前で展開しておりますので、ここの役割を増やしていきたいと思います。総菜工場では、ポテトサラダやマカロニサラダや煮物類、油あげなども製造しています。ただ、天ぷらやコロッケなどは揚げたての人気がありますので、インストア加工になります。

 また、刺身は水産部門の約26%を構成するようになってきました。これが27%以上になってくると相当の存在感が増し、競争力はアップすると思います。

──とんかつなどは、2切れなどの少量パックも販売しています。

山澤 今のお客さまは、いろいろなモノを少しずつ食べたいという要求があるからです。

 たとえばわが家も今は家内と2人暮らしです。いろいろな商品を購入してくると、半分は廃棄してしまうのです。以前は、昭和1ケタ生まれのもったいない精神で無理しても食べていました。しかし、もはや食べ切るパワーはなくなりつつあります。

 それで少量パックの潜在性を痛感して商品化に踏み切ったわけです。

 量と質と価格のバランスを組み合わせることで当社の特徴が打ち出せると考えています。

 だからパッケージはなるべく少量にして、インストアパックではなく、総菜工場でパックするようにシフトさせています。

かかりつけ薬局をつくる

──ヤマザワはグループ会社にヤマザワ薬品(山形県/山澤進社長)があります。09年6月の薬事法改正後は、いかに臨んでいますか?

山澤 おかげさまで売上、利益ともに前期を上回り、グループの業績を牽引しています。DgSの出店形式は試行錯誤を繰り返してきましたが、SMに併設するかたちのスーパードラッグストアが最も効率がよいと考えています。現在のプロトタイプは150~200坪です。食品は極力導入せずに薬とヘルス&ビューティケアに商品部門を絞り込んでいます。

 改正薬事法の施行で大衆薬販売の参入障壁は圧倒的に低くなりましたので、今後、調剤併設型のDgS以外は通用しなくなると思います。理想は、各店舗に薬剤師と栄養士を配置して、かかりつけ薬局としての機能を充実させ、リピーターすなわちファンづくりができる店舗として育成していくことです。

 その実現に向けて、薬科大学を退官された2人の元教授を採用しました。薬剤師と登録販売者の教育をしてもらう予定です。当然、全従業員に登録販売者の資格を取得してもらいます。

──最後に今後の目標についてお聞かせください。

山澤 依然として景気の本格的な回復は見込めずに、消費は弱含みで推移するものと予想されますが、積極的な投資で既存店活性化させたいところです。

 11年3月期の通期の目標は、売上高900億円(対前期比0.4%増)、営業利益23億円(同1.2%増)、経常利益23億5000万円(同1.9%増)、当期純利益は資産除去債務の特別損失への計上などによって9億5000万円(同21.4%減)を見込んでいます。