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既存店の業態改革が着々、上期で経常利益黒字化を達成=ダイエー 桑原道夫 社長

ダイエー(東京都)が今期、新規出店を加速させている。今年9月に都市型食品スーパー(SM)の「フーディアム」を、東京都と大阪府にそれぞれ出店。ディスカウントストア業態の「ビッグ・エー」も関西エリアに進出を果たした。業態改革で足場を固め、再成長に向けた一歩を踏み出した。

新店出店を再開!

──ダイエーの2012年2月期第2四半期決算(連結)は、営業収益が対前期比5.6%減の4378億9900万円、営業利益は同250%増の20億4500万円、経常利益も黒字転換しました。上期の業績をどう評価していますか。

ダイエー代表取締役社長 桑原道夫 くわはら・みちお 1972年丸紅入社、98年同社自動車部長などを経て2005年同社代表取締役常務執行役員、06年丸紅米国会社社長・CEO、08年丸紅代表取締役副社長執行役員などを歴任。10年5月から現職。63歳。

桑原 100点満点中、80点といったところでしょう。今期は中期3ヵ年計画の2年目に当たり、通期での経常利益の黒字化を目標に掲げてきました。連結も個別も経常黒字化を達成できた点は評価できます。

 ただ、社内目標はもう少し高く設定しており、そこには届きませんでした。その要因の一つが、お客さまの数が対前期比4%減となったことです。買上点数は上がっていましたが、お客さまの数を減らしてしまったことが既存店売上高の減少につながりました。

 小売業はお客さまがあってこその商売ですから、下期は増加に向けて取り組んでいます。

──小売業各社の業績を見ると、9月は軒並よくなかったようです。その原因をどう分析していますか?

桑原 9月の既存店売上高を前期実績と比べると、10年はタバコ増税前の駆け込み需要があり売上高を押し上げてくれました。それがないぶん、今年は厳しいですね。最近は、消費者が財布の紐を締めているという印象があります。

 消費が鈍化している背景には、さまざまな理由が考えられますが、一つは円高の影響があると考えています。日本は輸出入をがんばらないと経済が活性化しない。10年前と比較しても、GDP(国民総生産)に占める純輸出入比率が下がっており、このように“カネ回り”が滞っていることが日本国内の景気を停滞させ、消費にも影を落としていると思います。

都市型SMに期待感

──現在は既存店のフォーマットの整理を進めています。

桑原 ダイエーは11年10月末現在、212店舗を展開していますが、これを総合スーパー(GMS)とひとくくりにはできません。そこで“GMSからの決別”を宣言し、前期(10年2月期)にダイエーに加え、子会社の食品スーパー(SM)「グルメシティ」やディスカウントストア(DS)の「ビッグ・エー」の店舗を5つの業態──「DS」「SM」「SSM(大型食品スーパー)」「SSM+MD(マーチャンダイジング)」「SSM+MDの大型店」──に分類し、業態戦略を推進しています。

 この5業態に今期、都市型SMの「フーディアム」が加わりました。高齢化や人口減少といった人口動態の変化が進むのと同時に、人口が都市部へ集中化していきます。東京や大阪、政令指定都市の中心部に人口が集まり、男性同様に働く女性がどんどん増えている。そうして新しいライフスタイルが出てくると、都心部に小型SMが必要になるはずです。

 フーディアムは他社が展開する「都市型小型店」よりも先を行く、“尖った”店にしようと意気込んでいます。都市生活者にとって便利なレイアウト、商品構成を考えました。

 とくに総菜の売上高構成比が高いのが特徴で、総菜のアイテム数を増やすのはもちろん、より洗練された商品づくりをしています。「セレクトボックス」といって、ご飯(200円)とおかず(280円)の組み合わせを楽しめる総菜などが代表例です。

 また、若干アップスケールな商品も差し込んでいます。たとえばフーディアム下北沢店(東京都)では地元のベーカリーの商品を取り入れたほか、ワインや、ナチュラルチーズ、生ハムなども豊富に品揃えしています。

 今後、都市部への人口がより集中していくことが考えられますから、フーディアム業態は今後の成長エンジンの一つに育てたいですね。

──フーディアム業態として下期に開業したフーディアム下北沢店、フーディアム堂島店(大阪府)のオープン後の動向はどうですか。

桑原 お客さまからの評判は上々です。とくに総菜への反応がよく、総菜の売上高構成比は堂島店が約30%、下北沢店が約25%と高くなっています。

 下北沢店の地下1階売場は生鮮食品を含めた“素材”売場になっています。ただ、都市型SMは不動産コストが高いため、粗利益を確保できる総菜の売上が成否のカギを握ります。そういう意味では両店舗とも、当初のねらい通りに推移しています。ただ、新店で知名度が低い今は、社内の計画数値には届いていません。これについては知名度を高めるための時間が必要だと思います。

 フーディアム下北沢店とフーディアム堂島店は新店ですが、今後は既存店からの業態転換も検討しています。当社にはダイエー単体で展開する店舗のほかに、子会社のグルメシティ各社が運営する店舗も多くあります。8月にはグルメシティ近畿(大阪府/高月春美社長)の東心斎橋店(大阪府)の屋号をフーディアムに変えました。また05年に開業したフーディアム三軒茶屋店(東京都)のようにフーディアムを冠する店舗も今後、新しいコンセプトに変えていく計画です。新店も含めて12年度初めには10店舗まで増やしたいと考えています。

ビッグ・エー
関西で50店舗態勢めざす

──もう一つの注目業態が現在、好調に推移しているディスカウントストアの「ビッグ・エー」業態です。今期に入ってからビッグ・エー関西(大阪府/白石圭二社長)を設立し、大阪市内への出店を始めています。

好調に推移するビッグ・エー業態。関西エリアでも展開を始めた(ビッグ・エー住之江駅前店)

桑原 国内の動向を見ると、基本的にはデフレを脱却できておらず、消費者の収入が増えていないというのが実態でしょう。消費の二極化という流れの中で、安さが求められる傾向は依然として強いと見ています。

 ビッグ・エーは半径500m商圏をターゲットにしており、狭商圏から高来店頻度をねらうビジネスモデルです。商圏が狭いぶん、高齢者も来店しやすく、生鮮食品などの素材も含めて安く購入できます。そうした意味で、時流に合った業態だと言えるでしょう。

 ビッグ・エーには30年の実績があり、11年10月現在の店舗数は、関東で174店舗になっています。近畿地区でも絶対に成長できると考えています。

 ビッグ・エーの1店舗当たりの年商は3億~4億円程度と低いですが、ローコストオペレーションで運営することで利益を出しています。

 ただ、採算に乗せるためには、店舗数を一定規模まで増やすことが必要です。現在は大阪市内に2店舗だけですが、今期中に4~5店舗まで増やして検証し、5年間で関西圏に50店舗、東西合わせて1000億円規模にしたいと考えています。

──フーディアムとビッグ・エーは好スタートを切ったということですね。一方でSM、SSM、SSM+MD、SSM+MD(大型店)といった既存のフォーマットについてはどのような取り組みをしていますか。

今年10月に開業した藤沢店(神奈川県)は、SSMフォーマットのモデル店

桑原 昨年はSSM+MD、SSM+MD(大型店)に問題がありましたが、これが上期に大きく改善しました。社内目標には到達できませんでしたが、改善幅としてはSSM+MDがいちばん大きかったですね。SSM+MDは店舗数が多いですから、営業利益の改善に大きく貢献しました。

 SSM+MDが伸びたのは、精力的に取り組んできたMD改革の成果が出たからです。SSM+MDは、店舗ごとにお客さまから要請されるものを品揃えするように改善しました。そのために今年の上期までに、たとえば「自転車」「ホームファッション」「スポーツ&シューズ」といった16のMDのメニューをつくりました。店舗ごとに、必要とされるものを選んで導入する方針です。こうした取り組みの成果が、今年の上期の数字に表れ始めたと見ています。

 とくにホームファッションは、東日本大震災以降に続いている「節電」需要に対応し、冬に向けて「エコライフ」というスローガンでMD改革に取り組んでいます。また、ホームファッションのカテゴリーのプライベートブランド(PB)「リブニー」を10月から新たに投入しました。今年は約140店舗のホームファッション売場を改装する計画ですが、10月度の販売実績が好調ですので、これから楽しみにしています。

 前期には単体で新店、改装、情報システム等に約100億円を投資しましたが、今期は約200億円まで投資額を増やして営業力強化に取り組みます。上期は東日本大震災の影響もあり、思ったほど進みませんでしたが、下期には積極的に改装を進めて行きたいと考えています。

──リアル店舗の6業態に加えて「ネットスーパー」も展開しています。

桑原 今期に入って近畿の2店舗でも展開をはじめ、10月に北海道でもネットスーパーをスタートしています。

 ネットスーパーは「儲からない」と言われますが、リアル店舗と同様に、こちらも数を増やさなければ採算に乗りません。

 ただ、ライフスタイルが変化するのに伴い、ネットスーパーの需要は間違いなく増えていきます。目先が赤字だからといって歩みを止めるわけにはいきません。12年度末までに50店舗程度まで拡大していきたいと考えています。

チラシの集客効果は5%

──価格政策は業態ごとに変えるのでしょうか。

桑原 競合状況によるため一概には言えませんが、ビッグ・エーと大型店の価格政策は違います。両者で重なる商品もありますが、そもそも取扱商品が異なります。

 コモディティ商品はエブリデイ・ロー・プライス(EDLP)、エブリデイ・ロー・コスト(EDLC)が基本です。ローコストオペレーションをベースにするという部分は、どの業態にも共通する考え方です。

 EDLPに加えて、FSP(フリークエント・ショッパー・プログラム)のカード会員向けの特別価格や、期間限定の特売を組み合わせた販売促進(販促)を実施します。

 ダイエー本体で100万人、グループ全体で150万人のお客さまが1日に来店されますが、ダイエー本体だけで見ると来店されるお客さま全体の約6割がカード会員です。ということは約4割は非会員ですから、まだ伸び代があります。売上で見ると全体の約7割をカード会員が占めますから、引き続きカード会員を増やしたいと考えています。

──チラシによる販促についてはどうお考えですか?

桑原 SMでは減らす方向です。

 昨年からSM業態の「働き方改革」を始めました。グルメシティ浦和道場店(埼玉県)を実験店舗とし、チラシの集客効果を検証した結果、その影響は5%程度ということがわかりました。もちろん全店舗での結果ではありませんが、チラシ販促をやめるとお客さまの数が5%減少し、そこにEDLPを導入するとお客さまが戻るという結果が出ています。

 また、同店ではSKUを実験前から3割程度減らしました。単品当たりのフェース数を拡大し、補充頻度を減らし、販促を見直したことで上期は営業黒字化することができました。「働き方改革」のチームは現在、ほかの地域にも入って水平展開を始めているところです。

 「働き方改革」を進める中で重要なのは、フレキシブルに対応できるシフト組みです。また、効率的な人員配置のためにも、生鮮にもレジにも対応できるというような「多能工化」の工夫も必要です。

──SM、SSM以外の業態改革はいかがですか。

桑原 業態別に組織を見直しました。昨年は大型店の業績が問題だったこともあり、営業本部の中に大型店だけを担当する営業部を設けています。当社には今、関東、近畿、九州、北海道の各地域に営業本部がありますが、そこに権限を委譲する方向で進めています。地域の差配は、各地域の営業本部長を主体にしていきます。

──さて、高齢化が進み、国内市場が縮小していきますが、海外進出についての考えを最後に教えてください。

桑原 当社は今年3月、海外戦略のための組織を設置しました。将来を考えたら海外展開は無視できません。とくに中国、アセアンへの進出について検討を始めています。

 ただし、これは私の持論ですが、小売業には「出遅れ」ということはないと考えています。進出が遅ければ“高い買物”になるかもしれません。それでも利益のリターンと、失敗のリスクを天秤にかける必要があります。既存の企業を買収するという選択肢もあるわけです。

 当社には、業界他社よりも早く出すぎて火傷を負った過去があります。失敗経験も生かしてきちんと調べたうえで、進出方法を決めたいと思います。具体的な出店は、もう少し先になりますね。