「おとり広告問題」に続いて高まる値上げ圧力……揺れる回転寿司チェーンの現在地

棚橋 慶次
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値上げ問題と回転寿司業界のすすむべき道

Nayomiee/istock
Nayomiee/istock

 中でも動きが早かったのは、最大手のスシローだ。5月9日付で、最安値の黄皿(110円:税込、以下同)を10円値上げするとリリース。同時に赤皿(165円→180円)、黒皿(330円→360円)の価格を変更することも発表しており、10月1日から新価格帯での提供をスタートしている。

 9月7日には、業界2位のくら寿司も実質的な値上げを発表。最低価格帯は115円と、スシローより5円安く抑えた。スシローもくら寿司も、調達努力やオペレーション効率化などによって何とかしのごうとしてきたものの、さすがに限界だったようだ。

 もともと「100円寿司」の原価率は高い。一般的な飲食店が原価率30%とされるのに対し、100円寿司の場合、ネタによっては80%前後にもなるとも言われている。だからこそ、食材仕入れ価格の高騰は経営に大きく響いてくる。「1皿100円」は回転寿司チェーンの看板でもあるだけに、値上げは苦渋の決断といえる。

 では、今回の値上げで問題は解決できるのか。

 円安進行に伴う食材値上げが話題となっているが、水産物の価格上昇トレンドは以前から続いている。ここ10年余りで水産物の価格は6割近く上がっており、そこに直近の円安が追い打ちをかけている状況だ。

 理由は、世界的な魚食人気にある。和食ブームに加え、高タンパクで脂肪も控えめな魚は欧米・アジアで人気が高い。特にアジア諸国では中所得層増の影響で、魚の消費量が急上昇している。

 日本では安さを前面に押し出すスシローやくら寿司だが、海外店舗では様相が異なる。たとえばニューヨークの「くら寿司フォートリー店」では、最低価格帯が1貫3.35ドル、現在の為替レートでは450円を上回る

 そうした高価格でネタを提供できるということは、食材の購買力が高いということでもある。グリーンバック(100ドル札)を切ってくる海外勢に日本企業のバイヤーが買い負ける……といった現象も現実に起こりつつある。

 今回の値上げはあくまで一時しのぎであり、このまま低価格で提供し続けていると、やがて日本に食材が入ってこなくなることもありえるかもしれない。そんな危機的状況が杞憂に終わることを願うばかりだ。

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