自力出店だけでDgS業界3位企業に
「地域完全制圧」をめざす──。今年7月中旬にオンライン上で開催されたコスモス薬品(福岡県)の2022年5月期決算説明会で、同社の横山英昭社長はこう息巻いた。
1973年、宮崎県延岡市で薬局として産声を上げたコスモス薬品。90年代に入ってからドラッグストア(DgS)のチェーン展開を本格化し、2000年代には現在の基本フォーマットである「小商圏型メガドラッグストア」を確立。それを高速かつ大量に出店することで成長を遂げてきた。
同社は現在、本拠地九州のみならず中四国、関西、東海、そして関東へと、東へ店舗網を広げており、8月末時点の店舗数は1264店舗。22年5月期の連結売上高は7554億円で、寡占化が進むDgS業界において、ウエルシアホールディングス(東京都/松本忠久社長)、ツルハホールディングス(北海道/鶴羽順社長)に次ぐ、第3位の売上高を誇る。
上位2社は積極的なM&A(合併・買収)戦略によって勢力を拡大してきた側面も強いが、コスモス薬品はM&Aはほとんど行っていない。つまり自力出店をし続けることによって、業界3番手・7000億円企業という座に上りつめたのだ。
徹底した標準化・効率化で「地域完全制圧」を現実に
とくに、③で挙げたオペレーションの標準化・効率化は、コスモス薬品の企業文化そのものともいえる。発注や品出しなどの店舗業務、棚割り、MD(商品政策)、売場レイアウトなど、店舗運営を支えるありとあらゆる要素が、徹底的に標準化・効率化された設計になっている。また、業務を煩雑化させる会員カードやポイントプログラムは導入しない、手数料がかかるキャッシュレス決済には対応しないといった点も、他のチェーンストアではあまり見られないポイントだ。
しかし、そのように確立されたオペレーションがあるからこそ、高速・大量出店が可能であり、商品の価格を安く維持できる。そして競争力の高い店舗網を全国に広げることで、各地でのマーケットシェアをどんどん高める──。横山社長が言う「地域完全制圧」という刺激的な言葉は、コスモス薬品の強固なビジネスモデルに裏打ちされたものなのだ。
PB強化で食品の品揃え拡大
他方で、特徴の②で挙げたように、国内小売業界においてコスモス薬品は、食品強化型DgSのパイオニア的存在としてのイメージも強い。食品スーパー(SM)やコンビニエンスストアにはまず真似できない低価格で食品を提供することによって、まずは集客力を向上。化粧品や医薬品など粗利率の高い商品群をそこに組み合わせることで売上・利益を確保するという、いわゆる「フード&ドラッグ」業態の代表的なチェーンである。
昨今はプライベートブランド(PB)の開発にも力を入れており、日配・加工食品を中心とした「ON365」、チルド・冷凍総菜の「おいしい惣菜」、日用雑貨と一部食品の「StandarDay」の主に3ブランドを展開。PBが品揃えに加わることによる、他のフード&ドラッグとは一線を画した「商品選択肢の豊富な売場」も、コスモス薬品の大きな武器になっている。
生鮮は「本格導入しない」も全否定はできない理由
他方で、本誌でも継続的に報じているとおり、他のフード&ドラッグ各社は、生鮮導入を軸とした成長戦略を描いている。たとえばクスリのアオキホールディングス(石川県/青木宏憲社長)やGenky DrugStores(福井県/藤永賢一社長)、そして今年9月にイオン九州(福岡県/柴田祐司社長)とフード&ドラッグ専業の合弁会社「イオンウエルシア九州」を設立したウエルシアHDなどがその一例だ。
対して、コスモス薬品は生鮮食品を積極的に導入することはしていない。ただ、本特集で実施した消費者調査では、「生鮮の品揃えを増やしてほしい」という声が多く集まった。PBを含めて豊富な品揃えを食品でも実現しているコスモス薬品に、一般消費者から「生鮮も買うことができたらいいのに…」という注文がつくのは自然な流れだろう。
しかし、複数の業界関係者は「コスモス薬品に生鮮導入は難しい」と指摘する。前述の徹底的に標準化・効率化されたオペレーションが完成しているなかで、鮮度管理や新たな売場設計が必要となる生鮮を入れることは現実的ではない、という見方によるものだ。
事実、冒頭の決算説明会においても横山社長は「(生鮮導入は)現状では非常に難しい」との認識を示している。ただ、それと同時に、「各エリアで適切なパートナーとの出会いがあれば、手を組みたい」という主旨の発言もあった。競合他社が生鮮導入を本格化し競争力を高めているなかで、その可能性を“完全否定”することはできないのかもしれない。
「変わらない」ことのリスクも
さて、ブレることのない完成された戦略を推進するコスモス薬品だが、死角はないのか。ある業界関係者は、「すべてのことが標準化されているゆえに、簡単に変わることができない」ことをコスモス薬品の弱みとして指摘する。既定路線から逸脱することが認められないという企業文化が存在するため、「新たな機軸のビジネスモデルに挑むことは難しい」(同関係者)というわけだ。生鮮導入の難しさについても、同じ文脈で語ることができるだろう。
また、商品・販売戦略において価格が「絶対最優先」とされる点に、疑問を呈する声も聞かれる。原材料の高騰などにより、小売・外食業界では値上げに踏み切る企業も増えているが、そのなかでも「地域いちばんの低価格を維持する努力を続けた」と横山社長。さらには、「消費者のために1円でも安く商品を販売すること、その努力を怠らないことこそが、小売業の使命だ」とも強調した。
ただ、コスモス薬品と価格交渉を日々行っているメーカーの心境は複雑だ。本特集ではメーカー関係者へのヒアリングも試みたが、「応じるリスクが高すぎる」として軒並み取材NG。唯一コメントを寄せてくれたメーカー関係者によると、「とにかく価格に対する要求がシビア。営業担当が受けるプレッシャーは半端ではない」という。そうした「メーカー・卸の穏やかならぬ関係性は、今後の経営上のリスクにもなり得る」(業界関係者)と見る向きもある。
コスモスを「学ぶ対象」としてとらえる
そうした死角もあるとはいえ、コスモス薬品が今後も各地でマーケットシェアを高めていくであろうことは確かだ。2000㎡という広い売場で食品・非食品を豊富な品揃えと圧倒的な低価格で販売し、それを自社競合もいとわず出店し続ける “攻めの姿勢”を前に、競合するSMやDgSはどのような策を講じればよいのだろうか。
まず1つは、コスモス薬品のビジネスモデルとは一線を画した自社の強みを打ち出すこと。これについては多くの企業が進めているだろう。コスモス薬品にはない強みを生かすことで、競争に勝っている、あるいは地域でコスモス薬品の存在感を極限まで低下させることに成功している事例も本特集では詳細に解説する。
それに加えて、本誌が提案したいのは、コスモス薬品を「ベンチマーク」する存在としてみることである。コスモス薬品の緻密な売場管理の手法、(多くの業界関係者はそう認識していないかもしれないが)レベルの高い接客・コンサルテーション、大量・高速出店が可能なフォーマットの設計、そしてそれを実現するための組織体制や風土づくり、やらないことの明確化とその徹底──。自社のビジネスを強化・革新していくためは、コスモス薬品から学べることも多いのではないか。
本特集では、コスモス薬品を企業、店舗、商品、顧客評価などさまざまな切り口でとらえ、強みと課題をあぶりだした。その内容を通じてコスモス薬品を深く理解し、自社の革新につなげていただきたい。
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