総取扱高3兆円越えの丸井、売らずに利益につなげる「三位一体」の方程式とは
売らずに利益につなげる方程式
キーワードは「新規事業、共創投資への無形投資を進めること」だ。新たな事業や有望なプロジェクトを、同社がテナント貸しと資金で支援。その際、同社はエポスカードの活用を条件とする。会員獲得のフックとするためだが、重要なのはそこではない。カードの普及によって、利用者のお金の動きを把握することが、同社が求める最大の価値だ。
家計シェアを最大化することで、トレンドや売れ筋をデータ解析。常に市場の半歩先を見通し、投資効率を最大化する。つまり、テナントをラボのように活用し、売らない代わりに情報を吸い上げ、「売れるを見極める場」とするのだ。
EC企業は当初からやっているデジタル時代のマーケティングの王道だが、生のイベントを絡めた場での施策は得られる情報の質も量も異なる。より未来へ向けた動きを把握できるのが、イベントフルな非物販テナントの強みといえる。
収集したデータは分析、解析し、磨き上げることで価値になる。移行期とはいえ、そうした人材が不足していることが現状の課題。そこでトランスフォーメーションにおける重要な施策として強化しているのが、人材育成だ。
目指すのは小売×フィンテック×未来投資の三位一体のビジネスモデル
同社が目指すのは、小売からフィンテック主導を経て、さらに未来投資を加えた三位一体のビジネスモデルへの進化。労働・資本集約型から、知識創造型への180度の方向転換となるだけに、人的投資に妥協はない。
現在の77億円から、26年3月には120億円まで人的資本投資を拡大。人件費に占める割合でみれば、現在の22%から35%にもなる計算だ。
箱や枠組みさえ整えれば、ある程度収益は見通せた時代から、人材こそが変化に対応する唯一最強の時代への転換に備えるにはある意味当然のスタンスともいえるだろう。
より具体的には、デジタルの力を活用して新たなビジネスをプロデュースできる人と定義する同社。それはまさに、百貨店のテナントを起点にイベントを企画し、カードの活用をベースにしてデータを収集。それを解析して、事業の促進や新たな売れ筋を生み出せる人材と言い換えていいだろう。
資産を活かしつつも大胆に業態転換
23年3月期は、総売上高で16%増の3兆9100億円、売上収益は6%増の2220億円、売上総利益は6%増の1940億円、営業利益が11%増の410億円、当期利益は21%増の215億円を見通す同社。伸びしろしかないといわんばかりの勢いで、総売上高4兆円もうかがう。
好立地、大キャパという「資産」は活かしつつ、ビジネスモデルを大転換し、変態を加速する同社。売ることが全てから、売らずに儲ける大胆なシフトが成功の大きな要因の一つに違いない。今まさに脱皮直前の同社の動向は、生き残りを模索する企業なら凝視しておくべきかもしれない。