2022年の消費と小売業業績の行方を読む!ポイントは迫る物価上昇に賃金は追いつけるか?
「新しい資本主義」の真意とは
2013年から2020年の名目賃金指数の平均はわずか+0.2%でした。
岸田政権とすれば、(1)日銀が当面の物価上昇率を+1.1%と予想し、中期的な目標を+2%とする以上、名目賃金もこれに匹敵する上昇を実現しなければ実質消費が腰折れてしまう、(2)これまで政府は教育費などの無料化や通信料金引き下げ介入などを進めてきており打ち手が減りつつある、(3)したがって従来以上に民間主導で賃上げを実現するメカニズムが必要である、という課題認識があるのではないでしょうか。
岸田政権の新しい資本主義の理念の中身やその性格(資本主義的なのか)が批判的に語られることが多いように思います。しかし、その本音は実は「マクロ経済運営の観点から、企業にはぜひ収益額を、できれば労働分配率をあげて欲しい、そのために収益力を抜本的に強化して欲しい」というあたりの話ではないかと筆者は考えています。
2022年春、賃上げはどうか
ということで物価上昇が強まる2022年春、賃上げおよび賞与がこれをカバーできるかが重要なポイントになります。
しかも、今回は小売企業への支援材料であった株高やインバウンドはこれまでほど期待できないうえ、コロナ禍で膨らんだ中小企業の債務問題もそろそろ課題視されはじめそうです。
ちなみに、2014年に小売企業の株価の年間騰落率を眺めると、小売株指数は+6%上昇しましたが、イオン、マツキヨココカラホールディングス(当時の社名はマツモトキヨシホールディングス)、ローソン、J.フロント リテイリング、セリア、髙島屋は下落しています。
2014年度の業績を見ると、セブン&アイ・ホールディングスのスーパーストア事業、イオンのGMS事業とSM・DS・小型店事業、マツモトキヨシホールディングス、ヤマダホールディングス、サンドラッグ、しまむら、三越伊勢丹ホールディングスなどが厳しい内容になりました。他方でファーストリテイリング、ニトリホールディングス、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(当時の社名はドンキホーテホールディングス)、コスモス薬品、ローソン、良品計画、エービーシー・マート、ヤオコー、イズミの業績はしっかりしており、類似業種内での企業間格差が出た印象です。
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仮に賃金上昇が不十分な場合にどう備えるのかー2022年前半の課題はここにありそうです。
最後に、再生エネルギーによる自給率アップのような、光熱費の高騰に対する抜本対策を政府に期待したいところです。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師
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