ポイントは「味の統一」と「店長教育」 もうやんカレー成長の秘訣
― 特に気をつけたことは何ですか?
辻 オーナーとして最も気をつけたのは、カレーソースの統一です。1号店と2号店の味は同じでないといけない。味で他のお店と差別化を図っている以上、そこは重視しているところです。2つの店舗のそばに部屋を借り、「秘密工場」として私ひとりでカレーソースのもとづくりをするようにしました。それ以前は、自宅のキッチンを改装してつくっていたのですが、店舗が2つになると当然材料の野菜や果物が増えます。1号店の時だけでも多かったのに、2つになるとさらに増え、身長を超えるほどの量になっていました。
ソースのもとを作り終えると、3輪のバイクで2つの店舗に運び、店長以下スタッフがカレーライスにします。カレーソースのもとづくりは機密ですから、基本的に私しか知らないようにしてあります。多店舗展開する会社では個々のお店の料理人に任せてしまうケースがあるようですが、もうやんカレーではしません。あくまで、創業時からひとりでつくり続けています。それがオーナーの責任であるし、お客様への感謝やお礼になると思いますから。
― 2号店を開店した後、スムーズに進みましたか?
辻 はじめの1年間はとにかく忙しかったですよ。1日の睡眠は3~4時間。カレーソースのもとづくりや店長以下、スタッフとの話し合い、売上や経費をはじめとした数字の計算、業者さんやスタッフへのお金の支払いなど、オーナーとしてすることがとても多かった。昼は店舗で仕事、夜は秘密工場でカレーソースのもとづくり。20代~30代前半だったから、少々の無理もできたのでしょうね。2年目になると軌道にのり、スムーズに動くようになり、負担が減りました。
両店の店長と私とはコミュニケーションがうまく進み苦労はしなかったのですが、アルバイトとして雇ったスタッフの状況が正確に把握できないことが時々ありました。1号店だけの時は目をつぶっていても、それぞれが何をしているかわかりました。2号店を開店するとそれが難しくなります。双方のお店を往復するから、スタッフとコミュニケーションをする機会が少なくなり、以前のようにはわからないのです。
そこで取り組んだのが、2人の店長への教育でした。特にスタッフへの接し方や指示、注意、評価の仕方など。紙に書いて、「この時はこうする」「こうなったら、こんなようにすべき」と1つずつ丁寧に教えました。私が個々のスタッフに指示をしても、常時そこにいることができないから中途半端になりかねません。店長を育成し、その店長がスタッフを育てあげるようにしたのです。
― 店長がアルバイトを上手く育成するための教育は、とても難しいように思います。
辻 私も考え抜いて教えていました。例えば、店舗の売上や一人ずつの従業員の売上(人数売上)などを教えるのも大切ですが、それらの数字に現れないところも重要なのです。店長らは料理は得意ですが数字は得意ではないので、数字を教えるとそこにだけ目が行ってしまいがちになります。
例えば、店内の掃除の作業は数字には現れにくいのですが大事でしょう。店長たちにはそんなところもきちんとアルバイトに教えて評価できるようになってほしい、と伝えました。そのうえで店長にしだいに権限を委譲し、任せたのです。多店舗展開するうえで、このあたりがものすごく大切だと思います。