オススメの一冊『サプライウェブ 次世代の商流・物流プラットフォーム』
コロナ禍では、特定の国に生産拠点や仕入れ先を集中させていたメーカーの製造が止まるなど、サプライチェーンの脆弱性があらためて指摘されるようになった。著者は、従来の固定的な取引先との関係を軸とした「サプライチェーン(鎖)」ではなく、今後は川上・川下の区別なくあらゆる調達先や納品先と自由に取引できる「サプライウェブ(クモの巣)」が発達するだろうと説く。本書は、サプライチェーンを取り巻く環境の変化、サプライウェブの発展とその基盤となるプラットフォームビジネスを解説しつつ、サプライウェブ到来に伴う各事業者にとってのチャンスと脅威を提示したビジネス書である。
本書は序章を含む7章構成となっている。第2章「チェーンからウェブへの進化」では、著者はサプライウェブが発展する背景の1つとして、消費に対する価値観の多様化と生産技術の向上によるマスカスタマイゼーションの拡大を挙げている。価値観の多様化が進行すれば、「自分だけの商品」を求める消費者が増える。家電のB T O(Build To Order:受注生産)のように、メーカーが素材やパーツの種類を増やして消費者の好みに合致する商品をつくるには、調達先を拡大する必要がある。同時に供給側も、変種変量生産が増えることにより1社当たりの出荷ロットが減少するため、納品先を増やさなければならない。マスカスタマイゼーションを実現するには、従来の固定的な関係を維持するだけでは不十分だと著者は主張している。
第3章「あらゆるプロセスがつながること」では、新規の取引先を増やすうえで必要な信用情報のデータベース化について述べられている。あらゆる事業者がつながるサプライウェブでは、新規の取引先に対してその都度信用情報を調査していては非効率だ。著者は、米国や中国の個人に対する信用評価の事例を挙げながら、企業に対しても取引実績や返済履歴などの情報をスコアリングすることが不特定多数の事業者との自由な取引を拡大するための基盤になると説く。
本書は物流企業だけでなく、メーカーや小売、プラットフォーマーなど商流・物流に携わるあらゆる事業者へ、自社の体制の見直しや新事業展開のためのヒントを与えてくれるだろう。