事業急拡大組も仕切り直し組も ネットスーパー、顧客争奪戦の勝者は?

小野 貴之 (ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長)

「儲けさせてくれるお客」を各社が奪い合い!

 ネットスーパーが勝つための条件は、「儲けさせてくれるお客」をどれだけ多く自社で囲い込めるかに尽きる。

 お客が時間をかけて店まで足を運び、売場を回って商品を買物カゴに入れ、自分で会計を済ませる──これがセルフサービスであるSMのモデルだ。

 一方、ネットスーパーは、商品のピッキングから配送までをすべて店側、運営者側が行うため、当然そのぶんコストは高くなる。店舗と同じ売価で販売したり、「送料無料」のようなキャンペーンを安易に行ったりしていては利益を確保するのは難しい。

 しかも一般的なネットスーパーは、米や飲料、酒類などの重くてかさばる商品をまとめ買いするケースが多い。それでは粗利益率の高い生鮮食品の売上高構成比は低く、利用頻度も低いままだ。いかにバスケットに占める生鮮食品の割合を上げて、粗利益額を確保しつつ、利用頻度を高めていくことが勝負を分けるカギとなる。

 その点で、高頻度を実現することに主眼を置いているのが、スーパーサンシ(三重県/田中勇社長)である。「サンシモデル」は、定額制の“使い放題”とすることで、実店舗と同等の利用頻度、生鮮構成比を実現している。また、高密度の自社配送により注文1件あたりの変動費を低減。早期の黒字化を可能としている。

 西友では、店舗を「OMOサービス拠点」と位置づけ、ネットスーパー単独で黒字化をめざすのではなく、実店舗とネットスーパーの併用を促し、商圏内に住むお客のウォレットシェアを高める戦略を採っている。これにより、ネットスーパーの運営するほぼ全店で黒字化を達成しているという。

 このほか、頻度は高くないものの、高い独自性で支持を集めているのがオーケー(神奈川県/二宮涼太郎社長)のネットスーパーだ。同サービスは最低購入金額を1万円(税抜)に設定し、かつ配送料として注文金額の3%を徴収するモデルをとっている。

 他社サービスにはないユニークな料金体系だが、商品価格は店頭売価と同じとすることで「ネット一番の安値」を実現、圧倒的なバスケット単価で存在感を増している。

 このようにネットスーパー運営各社はさまざまなアプローチで、「儲けさせてくれるお客」を取り込もうとしている。

 ただし、この領域にはすでに絶対的なポジションを築いているプレイヤーが存在する。「生協」だ。日本生活協同組合連合会(日本生協連)が公表している、地域生協の宅配事業供給高は2兆904億円(23年度実績)。冒頭のネットスーパー市場規模予測と比較すると、その規模の大きさがわかるだろう。

 つまり、「儲けさせてくれるお客」の多くはすでに生協に押さえられており、ネットスーパー同士の競争は小さなパイの奪い合いなのである。もちろん、「生協からどう奪うか」ということも検討していくべきだろう。

 急拡大フェーズが終わりを迎え、停滞の兆候が見え始めたネットスーパー市場。仕切り直し組もでてきた中で、儲かるビジネスモデルをどのように構築するか、いっそう頭をひねる展開となってきた。試行錯誤の中で、停滞感をも打破する新たなモデルは出てくるのか。各社の新たな挑戦が始まっている。

 

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記事執筆者

小野 貴之 / ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長

静岡県榛原郡吉田町出身。インターネット広告の営業、建設・土木系の業界紙記者などを経て、2016年1月にダイヤモンド・リテイルメディア(旧ダイヤモンド・フリードマン社)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」編集部に所属し、小売企業全般を取材。とくに興味がある分野は、EC、ネットスーパー、M&A、決算分析、ペイメント、SDGsなど。趣味は飲酒とSF小説、カメラ

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