焦点:過去最大の経済対策、効果は未知数 実感なき景気回復も

ロイター(ロイター・ジャパン)
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都内の横断歩道を渡る人
岸田内閣として初となる経済対策は、成長と分配を基本理念に掲げ、財政支出ベースで過去最大となった。ただ、対策効果は未知数で、賃上げなどの雇用環境改善につながらなければ「実感なき景気回復」が再燃する懸念もある。写真は2016年2月、都内で撮影(2021年 ロイター/Thomas Peter)

[東京 19日 ロイター] – 岸田内閣として初となる経済対策は、成長と分配を基本理念に掲げ、財政支出ベースで過去最大となった。ただ、対策効果は未知数で、賃上げなどの雇用環境改善につながらなければ「実感なき景気回復」が再燃する懸念もある。世界的な物価高が家計を直撃する状態が続くことも予想され、来年夏の参院選を前に政権浮揚を実現できるかは見通せない。

今夕の臨時閣議で決定する経済対策について、与党関係者の1人は「規模ありきの対策論議としなかったことが、逆にGDPギャップ(22兆円)を超える大ぶりな対策につながった。賃上げ税制にも踏み込み、意義ある対策となった」と語る。

経済対策では、18歳以下を対象とする10万円相当の給付や中小事業者への最大250万円の給付などを盛り込み、地方負担分や財政投融資を加えた財政支出は55.7兆円に上る。民間資金も含む事業規模としては78.9兆円となった。ロイターが最終草案を確認した。

原案段階でペンディングとしていた看護師の処遇改善では、まずは来年2月から1%程度(月額4000円)引き上げることで決着。民間に賃上げを促す効果も期待され、「場当たり的と批判される10万円相当の給付と異なり、政策意図が明確。成長分野である介護職などの賃上げ効果はマクロ的にも小さくない」と、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは評価する。

企業が持続的な賃上げに耐えられるよう、成長原資となる種もまき、来月の新しい資本主義実現会議では、岸田首相自ら労使代表に処遇改善を要請する構えだ。

 

民間試算とは常に温度差

もっとも今回の対策がどこまで効果を発揮するかは不透明が漂う。所得が増えた場合でも、どれだけ消費に回るかを示す「限界消費性向」の割合をどう仮置きするかで政府試算はゲタを履き、民間推計の方が低く出る傾向にある。

昨年4月に安倍内閣(当時)が策定した財政支出48.4兆円、事業規模117.1兆円の経済対策では、GDP押し上げ効果として4.4%と見込んだが、実際には今なおコロナ前の経済水準を回復していない。市場関係者の間では「ある程度の乗数効果は出るだろうが、今後出てくる政府想定には届かないだろう」(シンクタンク)との見方もくすぶる。

所得面では日本の年収はそもそも低く、OECD(経済協力開発機構)による2020年統計で、日本は3万8515ドルにとどまる。トップの米国(6万9392ドル)との比較では約半分に過ぎず、OECD平均(4万9165ドル)にも届いていない。

仮に経済成長を実現しても「来年の春闘で企業から満額回答を得られず、2000年代に指摘された『実感なき景気回復』の再燃とならなければいいが」(内閣府幹部)と懸念する声も、政府内にはある。

米政権揺るがす物価高

原油高が世界的な物価高を招き、米国では10月の消費者物価指数(CPI)が前年比6.2%上昇し、1990年以来31年ぶりの高い伸びとなった。

日本でも原油高に円安が重なり、企業物価が押し上げられる現状に「直近の物価高に対処しないと、政府が実現しようとしている賃上げは難しくなるのではないか」と、ニッセイ基礎研究所の矢島康次チーフエコノミストは指摘する。

物価高は消費者心理の悪化や不満につながり、直近のロイター/イプソス調査では、米国民の関心が新型コロナ対応から、消費者物価の上昇や他の経済分野に向かっていることが分かった。

物価高への関心は政権支持率にも影響し、米紙ワシントン・ポストとABCテレビが14日発表した世論調査では、バイデン大統領の支持率が41%と、両社の調査で最低を更新しており、前出の矢嶋氏は「資源輸入国としての対応は非常に難しいが、物価動向がもっとも岸田政権を揺らしかねない」とみている。

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