アングル:日本企業がアクティビスト逆活用、投資家視点で変われるか
[東京 21日 ロイター] – 日本企業の間で、これまで厄介な存在とみなされてきた「物言う株主(アクティビスト)」の主張を経営に「活用」する事例が出始めている。投資家視点のサポートをテコに、構造改革を進めた老舗企業もある。日本企業のガバナンス向上を踏まえ、アクティビストの側からも「建設的」なアプローチが出始めている。
「とうとう、うちにもアクティビストがきたか」──。オリンパスの竹内康雄社長兼最高経営責任者(CEO)は、運用会社の米バリューアクト・キャピタル(VAC)からの投資が明らかになった際の受け止めを「条件反射的な拒絶反応」と振り返る。それが今では「頼りになるパートナー」に変わった。何があったのか。
時間を、竹内氏が最高財務責任者(CFO)に就任した16年に巻き戻す。会計不祥事からの経営立て直しの局面で、社内は課題が山積していた。世界展開を進めつつも戦略は日本の価値観に則ったものに偏り、日本にだけ年功序列制度が残っていた。製品・地域ごとに「ムラ文化」が形成され、取締役会は「利益代表者会議」の様相だった。
カメラ市場は低迷し、経営資源を医療分野に集中する方針を掲げたものの改革は進まず、笹宏行社長(当時)と竹内氏は危機意識を強めた。17年頃から、真のグローバル企業になるべく本質的な改革の検討に着手。VACが投資したのは、そのタイミングだった。
「成長につながる」から再任
窓口は当時CFOの竹内氏。意見交換してみると「まともな投資家で、アクティビストも一様ではないと思い始めた」。会社のことをよく調べ、理解も深く、独自の展望も持っていた。
18年5月には、VACが出資比率を引き上げた。ヘルスケアに知見のあるロバート・ヘイル氏、ジミー・ビーズリー氏を社外取締役に推したいとVACから打診を受けた竹内氏は「これまでのやり方を全部ひっくり返すぐらいでなければ100年続くこの企業は変わらない」と考え、19年1月に受け入れを発表した。
金融市場は、変化を感じ取った。東海東京調査センターの赤羽高シニアアナリストは、この頃から改革が「一気に具体的に動き出した」と指摘する。
19年には、業務執行と監督を分離する指名委員会等設置会社への移行を決定した。伝統的な監査役会型では取締役会の決定事項が多く機動的でないと判断。ムラ意識を崩すには、少人数の執行陣が意思決定し、取締役会がそれをサポートする役割の明確化が必要と考えた。竹内氏は、VACとのコミュニケーションもあって「取締役会によるコーポレートガバナンスのあるべき姿を、深く考えるようになった」と打ち明ける。
ヘイル氏とビーズリー氏は、会社の利益成長という目的を執行陣と共有し、選択肢やアドバイスの提示はしても、執行陣の意向には反対せず、サポート役に徹した。その振る舞いは他の取締役にも好影響を及ぼし「理想的なボードメンバー」(竹内氏)として20年に再任した。「成長につながると思わなければ、2年目は推薦していない」と竹内氏は語る。
オリンパスは19年、国内にジョブ型人事制度の導入を決めた。20年以降には医療関連企業の合併・買収(M&A)を積極化。会社の「顔」だったカメラ事業の売却も決めた。19年以降、TOPIXが約3割上昇した局面で、同社の株価は3倍近くに上昇した。
ガバナンス改善で「土壌」整う
大手企業では東芝が3月、筆頭株主の要請で臨時株主総会を開き、会社側が反対した株主提案が可決された。この株主提案は東芝のガバナンスの適正性を問うもので、投資家の間では、取締役会が適切に監視機能を果たしているかチェックする機能を、アクティビストが果たし得るとの見方も出ている。
フィデリティ投信の井川智洋ヘッド・オブ・エンゲージメント兼ポートフォリオ・マネージャーは、アクティビストの存在が近年、投資判断の要素に入ってきたと話す。アイ・アールジャパンによれば、国内で活動するアクティビストの数は年々増加し、14年の7から、20年には44になった。取締役の選任議案などで、アクティビストの意見を会社提案として取り込む事例もあり「経営陣との対話を重視するアクティビストが目立ち始めた」と、井川氏は話す。
こうした動きは、企業のガバナンス向上とも関係がありそうだ。英投資会社のアセット・バリュー・インベスターズのジョー・バウエルンフロイントCEOは「政府によるコーポレートガバナンス・コードなどの導入を機に、企業側もいわゆるアクティビストと建設的に議論するようになった」と指摘している。
市場が好感した企業は他にもある。化学メーカーのJSRだ。オリンパスにVACから派遣されていたヘイル氏を、社外取締役候補にすると1月に発表。翌日の株価は一時7%超上昇した。宮崎秀樹取締役常務執行役員は、VACとの意見交換を通じて中長期の企業価値向上を考えていると理解できたと、当時の会見で説明。受け入れの判断は「経営のスピード感を高めたいと考えた結果」と話した。オリンパスと共通するのは、伝統ある事業の改革だ。JSRは祖業の合成ゴム事業の改革を「抜本的かつ聖域なき観点で進める」(宮崎氏)と語った。
早稲田大学大学院経営管理研究科の鈴木一功教授は、日本企業は良くも悪くも横並びだとし「良い実績がいくつか示されれば、同様の取り組みは広がり得る」と話す。オリンパスは22年3月期には、カメラ事業売却に関連した構造改革費用がなくなる。東海東京の赤羽氏は、海外事業の拡大も見込んでおり「攻勢に転じる」とみている。
市場は、経営陣のアクティビストに対する目利き力や、市場との対話力にも目を凝らしている。オリンパスやJSRのように、投資だけでなく経営に参画する場合は「会社側と議論し、ガバナンスへの影響について個別に評価する必要がある」と、フィデリティの井川氏は話している。