イオンモール岩村康次社長が語った「コロナ禍のモール経営の方向性」
未だ収束の気配すら見えない新型コロナウイルス(コロナ)禍において、経営面・運営面で難しい舵取りを迫られているフォーマットの1つが、大型ショッピングモールだ。イオンモール(千葉県)の岩村康次社長は「コロナ対策に終始するのではなく、お客さまにとって快適な空間を提供することが重要」と話す。コロナ禍、そしてコロナ後のショッピングモールの在り方とはどのようなものなのか。岩村社長の発言を抄録する。
※本記事は12月4日に開かれた「イオンモール上尾」(埼玉県上尾市)オープン時の記者会見における岩村社長の発言内容を抄録・編集したものです。
コロナ第3波到来も、客数の落ち込みは予想の範囲内
直近では、コロナの第3波が来ているとも言われる状況だ。われわれでも、11月20~29日に「イオン ブラックフライデーセール」を開催したが、予想したよりも来店客数は少なく、感染拡大の影響は少なからずあったという認識だ。
ただ一方で、コロナ第3波によるインパクトだけでなく、政府主導で進めている「Go To トラベル」「Go To イート」の施策で、消費者の連休・休日の過ごし方が変わってきている感覚も持っている。平日だけで見れば、むしろ来店客数は昨年よりも若干多いくらいだ。以前よりも(来店の)ピークというものは少なくなっていて、来店客数も昨年並みとまでは言えないが、予想していた範囲の人数はキープしている。
しかし、感染拡大第3波が12月の年末商戦にどう影響を及ぼすかとなると、はっきり言って予想はできない。ただ、ショッピングモール企業として何をすべきかというと、外出してイオンモールを訪れていただいたお客さまに、いかに安心な場所を提供するか、そしてその事実をいかに多くの人に知ってもらうかということだと思う。年末商戦においてもその方針のもと、単に集客に努めるだけでなく、館内でゆっくり安心して過ごすための取り組みに注力する。それがきちんと実現できれば、(第3波の影響を受ける中でも)、予想している客数の範囲には収まると思っている。
コロナ禍でも重要なのは「より快適な買物空間の追求」だ
今回オープンしたイオンモール上尾は、イオンモールの施設の中では比較的中型(注:延床面積は約5万4000㎡、総賃貸面積は約3万4000㎡)となっているが、商品政策(MD)でこだわったのは、(コンパクトなサイズだからといって)エッセンシャルなものだけではなく、日々のライフスタイルに変化を与えてくれるような商品・テナントを導入するということだ。
(イオンモール上尾のような)コンパクトなモールはこれまで、「買いたいもの」「食べたいもの」が決まっていてそこに行くという使われ方が主だった。しかし上尾では、コンパクトだけど軽くブラブラできて新しい発見がある、ハレのシーンの中でも買いたい・食べたいものがあるといった、日常に必要なニーズを満たすだけでなく、選ぶ喜び、行く楽しさがあるMDを打ち出せていると思う。
今後の出店については、すでに数カ所の開業を公表している。これからのショッピングモールづくりを考えるうえでは、コロナ対策うんぬんではなく、顧客満足を向上させるためにどのような空間を提供できるかが重要だと考えている。
お客さまにより快適な空間をつくっていくことを追求していけば、これまでにないタイプのショッピングモールも出てくるはずだ。たとえば、「ジ アウトレット広島」(広島県広島市:2018年に開業したイオンモールの大型アウトレット施設。22年春には福岡県北九州市で2カ所目が開業予定)の運営面で学んだことを、通常のイオンモール業態に反映するといったこともあるだろう。
今後出店していくモールの規模感については、競合のいない出店空白地での新規開業や、既存モールの増床など、それなりの規模のものになっていく見込みだ。イオンモールのコア事業はRSC(リージョナル型ショッピングセンター)なので、今後もそれを中心に展開していくことに変わりはない。
ただし、時代の変化とともにモノ・コトの提供の仕方も変わっていく。顧客満足はもちろん、従業員満足の向上にも力を入れていくことで、地域に新しい価値をもたらすモールづくりに努めていきたいと考えている。
苦戦する中小アパレルのためにも、モール自体が「選ばれる場所」になる必要がある
他方、コロナ禍では、われわれのモールにも数多く出店しているアパレル業界の苦戦が顕著だ。たしかにここ数年アパレル企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しているが、リアル店舗なくしてブランドは確立できないと考えている。EC一辺倒ではコアなファンは簡単にはつくることはできない。
われわれイオンモールは、プラットフォーマーとして、とくに中小のアパレル事業者にそうした環境を提供していくことが大切だ。そのためには、イオンモール自体がお客さまから「選ばれる場所」にならないといけない。今後はわれわれに何が求められているのか、何が足りないのかといったことを(出店者から)聞き出しながら、ともにお客さまに支持される“空間”をつくり出していきたい。