アングル:ソフトバンクGに米中リスク浮上、アリババ株に影響も
[東京 26日 ロイター] – ソフトバンクグループ(SBG)に、米中摩擦という新たなリスク要因が浮上してきた。米国で中国企業の上場を制限する動きが浮上し、同社の「虎の子」といえる中国の電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディング株式への影響が懸念されている。アリババ自体の業績は好調だが、仮に上場廃止とでもなれば、流動性低下を通じて株価に悪影響が出る可能性もある。
米上院が全会一致で可決
米上院は今月20日、一部の中国企業による米株式市場上場を制限する可能性のある法案を全会一致で可決した。同法案の下、3年連続で米公開会社会計監督委員会の監査基準を順守できなければ、企業は米証券取引所での上場が禁じられる。さらに、外国政府の保有を巡る情報開示も義務付けられる。
同法案は全ての外国企業に適用される。しかし、トランプ政権が中国への強硬姿勢を強めるなか、中国企業が標的になっているというのがもっぱらの見方だ。
アリババは2014年9月にニューヨーク証券取引所に上場。現在の株価は、初値から約2倍となる200ドル前後で推移している。SBGの保有株のうちアリババ株は半分以上を占める。
「最悪の場合、上場廃止となるのではないか」──。そんな恐怖が市場に広がる中、同法案の上院通過が伝わった後、アリババの株価は軟化。22日には6%近く下落した。SBGの株価は小動きだったが、保有するアリババ株は21日に約3000億円、22日に約9000億円、それぞれ減少し、SBGの株主価値も目減りした。
「余裕」のSBGは静観
アリババは昨秋、香港市場にも重複上場した。仮に米市場で上場廃止になっても、すべてのマーケットで売買できなくなるわけではない。東洋証券のキョウ静傑アナリストは「ADR(米国預託証券)しか上場していない他の中国企業より融通が効く」と指摘する。
アリババ自体の業績も堅調だ。22日に発表した第4・四半期(1─3月)決算は、市場予想を上回る22%の増収で、利益も予想を上回った。新型コロナウイルスの影響によるロックダウン(都市封鎖)に伴うインターネット通販需要の拡大が寄与した。
SBGの関係者は、米市場での上場に制限がかけられたとしても「アリババの本質的な価値に変化があるわけではない」と冷静だ。短期的にNY上場の株価が悪影響をうけたとしても、アリババ株に価値がある以上、「中長期的には裁定が働き株価は戻る」と話している。
SBGの財務体質も以前より堅牢だという。孫正義会長兼社長は18日の決算会見で、コロナ・ショックの受け止めについて「過去に比べれば余裕で崖の下をのぞいている状況」と語った。「指二本で体を支えているような危機感だった」
ITバブル崩壊後や、「腕一本で支えている感じだった」リーマン・ショック後に比べれば、資産を現金化し財務改善する余地があると説明した。
今後の戦略に影響も
しかし、アリババ株の下落は、SBGにとって痛手であることに変わりはない。SBGが重視する株主価値が縮小するほか、先行き保有株の売却で期待していたような資金も得にくくなる。新型コロナウイルスの影響を大きく受けている現在のような状況では、投資戦略にも狂いをもたらしかねない。
SBGは3月、資産4.5兆円を売却して資金を調達し、2.5兆円の自社株買いと債務圧縮、手元資金に充てる計画を発表した。このうち、アリババ株の一部の先渡売買契約や通信子会社ソフトバンク株の一部売却を通じた約1.5兆円の資金調達と、1兆円の自社株取得枠の設定にすでに取り組んだ。
「今回の売却は保有株の5%に過ぎず、負債削減も考慮すれば利払い能力への影響は限定的」(UBS証券の高橋圭アナリスト)とされるが、通信子会社株はSBGにとって利払い原資の大黒柱。保有株の株価が下がれば、売却株数も多くなる。
S&Pグローバル・レーティングの西川弘之上席アナリストは、アリババ株の流動性の高さや信用力がSBGの信用力を支えている面が非常に大きいとし「その価値が大きく動くのは格付け上、マイナス評価になりやすい」と指摘する。
SBG傘下のビジョン・ファンドの投資先は「米国4割、中国4割、そのほか2割」(孫正義氏)とされる。
中国企業が新規株式公開(IPO)する際には「米国の方が、香港や中国本土市場より流動性が高く、株価が高く評価される可能性がある」(国内証券)という。米国で中国企業が上場しにくくなれば、今後の投資戦略にも影響しかねない。