ユニクロ以外、日本のほとんどのアパレルが儲からなくなった理由
今回は、かつて日本のアパレル企業が大いに儲かっていた時代に行っていたことと、時代が変化するなか、ユニクロと無印良品が行ったことの対比を通じて、アパレルの本質に迫ってみたい。90年代以降の歴史を紐解きながら解説するので、なぜ業界の流れを正しく理解するうえでも役立つだろう。
かつては「ブランドタグ」をつけるだけでザクザク儲かった
1991年度、私は大学を卒業して総合商社イトマンへの入社が決まっていた。イトマンは繊維専門商社が安宅産業と合併した企業で、不動産、化成品、繊維などを事業軸とした総合商社の道を模索中だった。しかし、入社式目前、同社は経営破綻し、「戦後最大の経営犯罪」と呼ばれる大事故が起きた。人は離散し、海外の支店は次々と閉鎖。有能な人材は伊藤忠商事、丸紅などに商権ごと移籍していった。イトマンは大リストラを行い、4000億円の余剰在庫の一括償却を決め再起を図った。
その後イトマンは住金物産(現・日鉄物産)に吸収合併され、新生住金物産として心機一転、商社としては画期的な改革を次々と断行し存在感を表していった。この頃日本のアパレル企業は「DCブランドブーム」に乗って大きく成長中で、市場ニーズは極めて大きかった。当時、ワールド、オンワード樫山、レナウンは「御三家」と呼ばれ500億円規模のブランドをいくつも持ち、また、拡大させていた。商社は、より高い利益を得るため、原産地を韓国、台湾から、香港、広東省、上海、北京へ北上、さらには東南アジアのタイやマレーシアへ移し、人件費コストを下げる戦略を断行していった。その結果、「DCブランドブームによる売上増加」と「南下政策による低コスト」が合わさり、アパレル企業は国内市場に専念することで史上最高益を更新するほど儲かる市場(=日本)できあがっていった。
私も、住金物産でもっとも忙しい営業マンの一人となり、オンワードやワールドといった勝ち組企業と組んで、イタリア・フランスに年2回、中国へは月1回の出張を行い、世界を股に掛けてどんどん市場(=日本)を席巻していった。当時、住金物産は「向かうところ敵無し」といわれていて、実際私も私の周りの人間もそう思っていた。
しかし、当時から私には、どこか腑に落ちないところがあった
私がOEM受託した製品は、市場で売れる価格の20%程度であった。つまりアパレルは、2000円で仕入れた製品を1万円で売るビジネスだ。「BIGI」「Nicole」「Junko Shimada」「Melrose」など、「ブランドタグ」をつけるだけで飛ぶように売れていった。まるで、資源豊富な金山でザクザク金を掘っている感覚だ。
だが、その「ブランドタグ」には、欧米のスーパーブランドと比べるまでもなく、明らかにブランド価値や付加価値と言えるものはなく、ただの「分類名」に過ぎなかった。にもかかわらず、それらの「ブランド=分類名」は時代の流れもあり、巨額の利益を企業にもたらすため、次々と生まれていった。
私の違和感の本質は、そこに確固たる価値、骨太な価値を見いだせなかった、ということである。わかりやすく言えば「こんなビジネスがずっと成功し続けるはずがない」というのが、私の感覚だった。
しかし、多くのアパレル企業経営者はそんなことを考えるより、今儲かるビジネスを必死に刈り取ることに注力していったし、現実に儲かっていたため、そんなことを思う人はいても、語る人は誰もいなかった。のちにアパレル市場の覇者となる「一人の経営者」を除いて。
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