時給上げても人手不足に=「年収の壁」対応急務―春闘
2023年春闘が本格化する中、パートやアルバイトの時給を引き上げる動きが広がっている。物価高への対応に加え、待遇改善で人手不足解消につなげるのが狙いだが、税負担などが増える「年収の壁」により短時間勤務にせざるを得ない人も少なくない。賃上げがかえって人手不足を招きかねず、対応が急務になっている。
大阪市のテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は20日、アルバイトらの賃金を3月から平均で月7%引き上げると発表した。東京ディズニーランドなどを運営するオリエンタルランドは4月から時給を一律80円、イオンも3月以降、パート従業員約40万人の時給を平均7%上げる。雇用者全体の約4割を占める非正規の賃金改善が進めば、諸外国に比べ低い日本の賃金水準の底上げにつながる可能性もある。
ただ、所得税が発生する年収103万円、扶養家族の対象から外れ社会保険料負担が生じる130万円の「壁」を意識し、就労時間を調整する人も多い。金融機関に勤める神奈川県の女性(38)は、家事や子育てとの両立を考え、勤務は週2~3日。「保険料負担がなければもう少し働きたい」のが本音だが、扶養範囲内にとどめている。
「時給を上げると余計に人手が不足する。悪循環だ」。食品スーパー大手ライフコーポレーションの岩崎高治社長はこう訴える。また、スーパー「アキダイ」(東京都練馬区)の秋葉弘道社長は「就労時間の調整で年末は特に人繰りが厳しい」とこぼす。安い賃金では人手が集まらず、時給を上げればシフトが埋まらない。岸田文雄首相は今月1日、国会で「年収の壁」見直しに言及したが、議論の行方は不透明だ。
リクルートの調査機関ジョブズリサーチセンター(東京)の宇佐川邦子センター長は「制度の抜本改革が必要」と強調する。日本の労働人口が減少する中、人材確保には「賃上げとセットでキャリアアップ、正社員登用につながる制度を整え、長く働いてもらうことが重要だ」と話している。