第4回 上司の「独りよがりで、執拗ながんばり」が、部下を潰す
賢いバカになれば、部下はついてくるし、慕ってくれる
中小企業のワンマン経営者に見られがちな事例といえるかもしれない。私は、次のような教訓を導きたい。
こうすればよかった①
役割分担と権限委譲、「適度なあきらめ」があるか…
会社での人材育成は、社長や役員、管理職の力だけではできない。この社長は、それを正しく理解していない。ひとりで部下を育てることができる、と本気で信じている。小さな会社では、社長が得てして単独行動を繰り返し、いつまでも「人材育成の仕組み」をつくれないがゆえに、部下を潰す傾向がある。
この仕組みをつくるためには、ある程度の役割分担と権限委譲、そして「適度なあきらめ」が必要になる。ところが、この社長は真逆だ。すべてにおいてひとりで権限を握る。そして、部下が何かしたときに、その結果に妥協やあきらめをしない。むしろ、現実離れした水準までがんばろうとする。実は、そんなレベルには社長自身も達していないのに、だ。それでも、本気でできると信じ込んでいる。この「独りよがりで、執拗ながんばり」が、部下を潰していることに気がつかない。
こうすればよかった②
「賢いバカ」になろう
特に小さな会社の社長や役員、管理職は部下を育成するために、ある種の演出をしないといけない。「(自分はこの仕事が)デキナイ」と連発し、部下が意見や提案を言いやすくし、仕事に真摯に向かうように誘うのだ。たとえば、「〇〇さん、俺はここができないから、教えてよ」「私はこれはできないから、〇〇さんに任せる。2日に1回は報告はしてね」…。こんな具合に、「賢いバカ」になりきり、双方の精神的な壁を低くする。これでこそ、互いに支え合える。
自分が権威を失うのではないか、などと心配はしなくともいい。「賢いバカ」の上司には、必ず、賢い部下がついてくる。上司が演じていることぐらいは、わかっているのだ。ところが、今回の社長は自ら「デキル」を連発する。これでは、部下との間の壁はますます高くなり、部下は意気消沈としていく。部下と競い合い、「俺がやんなきゃあ、だめなんだな」と勝ち誇っている限り、育成はできない。
神南文弥 (じんなん ぶんや)
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。