食品卸大手日本アクセス(東京都/佐々木淳一社長)傘下のD&Sソリューションズ(東京都/岩崎隼弥社長共同CEO)は、2019年以降、小売業とメーカーをつなぐ「情報卸」を標榜。小売業のDXを推進し、製・配・販での情報の断絶に起因するさまざまな課題の解決に取り組んできた。23年には新たなサービスの提供も開始する。
メディア横断型のネットワーク
D&Sソリューションズが取り組む「情報卸」の小売業向けソリューションとして、LINE(ライン)上で動作する食品スーパー(SM)特化型アプリケーション「LINEミニアプリ」や、デジタルチラシとともに商品の魅力や活用術などのコンテンツを配信できる「チラシNEXT」などを開発している。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス:サービスとしてのソフトウエア)方式で提供され、これまでに約20社で採用された。たとえば、21年12月に「LINEミニアプリ」を導入した静鉄ストア(静岡県)では、ユーザー数が約8万6000人(1月11日現在)にのぼる。
アマゾン(Amazon.com)やウォルマート(Walmart)を中心に寡占化された米国のリテールメディアに対し、日本のSM業界は寡占化されていないため、個社のアプリやウェブサイトのPV(ページビュー:ページの閲覧)には限界がある。月間PV数が100万件を超える小売企業は一部にすぎない。
このような実状をふまえて、取締役共同CEO望月洋志氏は「日本独自のリテールメディアの仕組みが必要だ」とし、23年からの取り組みとして「個社のリテールメディアを集約したリテールメディアネットワークを本格的に開始する」との方針を示す。
リテールメディアネットワークは、複数のインターネット広告媒体を集めて広告配信ネットワークを形成する「アドネットワーク」と同様に、複数のリテールメディアをネットワーク化し、メディア横断で広告を配信する仕組みだ。メーカーなどの広告主にとって、PVの少ないリテールメディアへ個々に広告を出稿することは効率的でないが、複数のリテールメディアを束ねられれば、合わせて1000万PV規模の広告枠に出稿できるようになる。
ネイティブアプリで顧客体験を創出
リテールメディアを進化させるためには、店舗と店舗外の双方で消費者の買物体験をアップデートすることも必要だ。買物体験をより深く追求するうえで、小売企業のネイティブアプリは有効なツールとなりうる。
米国では、ウォルマートやクローガー(Kroger)など、小売企業のアプリがユーザーから高評価を得ている一方、日本の小売企業のアプリでユーザーからの評価が高いものはごく一部だ。望月氏は「日本の小売企業のアプリの品質はユーザーが期待するものとまだ乖離がある」と指摘する。
そこで、D&Sソリューションズは23年から業界特化型SaaS方式で小売業向けネイティブアプリを提供する計画だ。アプリとデータを組み合わせたリテールメディアとしてネイティブアプリをつくり上げ、プッシュ通知やポイントカードとの連携など、ネイティブアプリの特性を生かしたユーザビリティの向上によって、より深い顧客体験を実現する。
D&Sソリューションズはリテールメディアで流通するコンテンツの製作にも強みを持つ。望月氏は「商品の魅力が消費者にきちんと伝われば値上げしても買ってもらえることをメーカーが実感しつつある」と分析。値上げ局面だからこそ、商品の特徴や魅力を伝えるコンテンツの意義が浮き彫りになっている。また、消費者の興味を引き付け、リテールメディアの接触頻度が高まるようなコンテンツを着実に増やしたことで、小売企業でもコンテンツの価値が認識されてきた。
デジタルはストック型のコミュニケーションだ。アプリやウェブサイトではコンテンツがどんどん蓄積されていく。望月氏は「SMでもプライベートブランド(PB)や生鮮食品での取り組みなど、独自のコンテンツを徐々に蓄積していくことが必要だ」と説いている。