第2回 P&Gとネスレが実践する「Engagement First戦略」
既存のプラットフォームとの融合
1つ目は、既存のプラットフォームとの融合(Integration with existing platform)である。P&Gのケースで言えば、まさにPampersとアプリ、モニターとの融合が上げられる。またこのポイントを広義には、インターネットの活用を通したお客様の課題解決と捉えられる。
今の子育て中のご両親は当然インターネットを活用して、情報収集や買物行動を行う。つまり、インターネットの活用は前提で、ハードウエアを提供するのか、コミットメントの高い買物といえるサブスクリプションサービスで育児サポートサービスを提供するのかの違いはあれど、インターネット、デジタルを活用したお客様との繋がりをスムースに構築する点において違いはないのだ。多くの人にとっては見たこともない、触ったこともないテクノロジーやサービスをいきなり受け入れることは難しい。そのことを考えると、商品(おむつや離乳食)が提供する価値とデジタル活用がスムースに融合していることが、新しい価値を生み出すことができればこのようなサービス、体験利用は広がっていくだろう。
UIの重要性
ユーザーインターフェース(UI)の重要性は、デジタルを活用したお客とのつながりにおいて必要不可欠である。今でもモバイルアプリ開発やサイト改善においても重視されるポイントであるが、「いかにお客さまが使いやすい製品・サービスになっているか」を常にデジタル体験の視点から確認しておくことが大切だ。
ガーバーで言えば、サブスクリプションの使い勝手、育児エクスパートとのスムースなコミュニケーション、P&Gで言えば、アプリの使いやすさはこのようなサービス提供における生命線といえるだろう。
信頼される企業・ブランドであれ
3つ目は信頼(Trust)である。リック・コワルスキ氏はセッションにおいてこの信頼が意味することは「個人データの安心・安全な保護を指す」と解説している。もちろん、そのような点は特にIoTデバイスを提供する企業にとっては重要になる。しかし、私はそのような点だけでなく、サブスクリプションやIoT製品を提供する企業への純粋な信頼、期待も重要な要素であると考える。せっかくお客さまが受け入れ、利用し始めた商品から個人情報が漏れ出すことや、意図しない方法で企業内、企業間で利活用されるようなことはあってはならないが、「この企業なら私たちの課題を解決してくれる」、「つながっている価値がある」と思われることも信頼の一つだ。つまり、デジタル活用をしながら、信頼を生み出すためにはデータ保護はもちろんであるが、もう一度自社が提供している商品、サービス体験が本当にお客様の課題を解決し、信頼される企業であるかの見直しと点検が必要と言えるだろう。
コミュニティの重要性
4つ目は、コミュニティ(Community)の重要性。これはまさにユーザー間のコミュニケーション、企業との常態的交流を意味する。Gerberの育児エキスパートとのコミュニケーションや、P&Gが提供する睡眠データや、育児コンテンツがもたらす企業とお客様の繋がりはもちろん、SNSやOwned Mediaにおけるサービス利用者の交流促進がデジタル活用したビジネスには不可欠です。コロナ禍でさらに躍進したIoT型フィットネスバイクの「Peloton」も、ユーザー間の関係性構築や、カリスマトレーナーとの交流を推進している。このような開かれたコミュニティ作りは、先ほど解説した信頼にも繋がる。いつでも企業と対話できる状態の担保、お客様の声を通してサービス改善をしていく姿勢が必要なのである。
生活への新しい価値提供
最後に重要な点は、どんな時代においても大切なビジネスの基本でしょう。お客さまの生活に新しい価値を提供する(Adding Value to Consumer Lifestyle)という、ビジネスの基本なくして、デジタルによるお客様とのつながり作りは難しい。わざわざ新しいテクノロジーや、サブスクリプションサービスを受け入れてくれるお客様が期待していることは、「お客様の課題に正しく応え、価値を提供すること」につきる。それが約束できない企業にわざわざ高いお金も個人情報も渡したくはない。面倒なサブスクリプションサービスに加入もしたくないのです。コミュニティの重要性でもお話した通り、デジタルを活用したお客様とのつながり作りをする前に、お客の課題解決に寄与する製品サービス作りが重要なのである。
これからわれわれはお客とのつながり強化にむけてIoTデバイスの活用や、サブスクリプションサービスの提供、そしてD2C事業の立ち上げなどを行なっていく事だろう。このような取り組みを積極的に提供している今回の2つのサービスは、提供サービスは違いますが、デジタルを活用し、本気で新しい顧客価値提供に取り組んでいる。子育て市場のフォローの風をマクロ的にとらえていると、お客様は目の前にいるけど、誰とどのように繋がっているのかわからなくなる。
今こそデジタルを活用したお客様とのつながり作り、Engagement First戦略を実践すべき時といえるのではないだろうか。
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