第2回 P&Gとネスレが実践する「Engagement First戦略」

顧客時間 共同CEO:奥谷 孝司
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 ちなみにP&G は「ライフラボ」と称した展示スペースで、様々なコネクテッド機能、IoT製品を昨年多数発表しています。例えばAI機能を持つ電動歯ブラシの「Oral-B iO」、肌情報をスキャンできる「Opté Precision Skincare」などである。Oral-B iOを昨年筆者は体験してみたが、製品機能が優れていることはもちろん、自分の歯磨きの癖が記録できるため、磨き残し防止に便利だなと感じた。このようなサービス提供は電動歯ブラシの稼働状況把握を通して、お客の製品使用時間に入り込むことができることを意味する。

 このようにProduct First(製品第一)を志向してきた企業がEngagement First(繋がり第一)に戦略をシフトしてきている。そしてそのためにデジタル活用が不可欠なわけである。

「Oral-B iO」の写真

サブスクベビーフードサービスでお客様とつながるGerber

Gerber's Organic Subscription Boxes

 このようなIoTデバイスまで活用したお客との繋がり構築には大きな投資も必要だから、資金のある大手企業の独壇場とも言えるかもしれない。ただ、大手企業だからと言って、全ての企業がIoTデバイスを活用した繋がり構築を志向しているわけではない。グローバル企業ネスレが有するベビーフードブランドGerber(ガーバー)はサブスクリプションビジネスで、Engagement First戦略を開始している。このサービスを知ったのも前回の連載同様、今年行われた「Adobe Summit」なのであるが、基本的な戦略はP&GのLumi by Pampersと同様と言えます。

 ガーバーは1927年米国創業の老舗ベビーフードメーカーで、2007年にネスレグループ傘下に加わっている。製品に有機栽培食材を使うなど、商品のクオリティには定評がある。この企業が昨年から始めたサービスの特徴としては、月齢に合わせて食べるものが変わる乳幼児に対して月額70ドルでガーバーの育児食が届くという仕組みである。

 さらに、「The Learning Center」と称す育児にまつわるコンテンツ提供プラットフォームを展開し、24/7での育児エキスパートによる相談窓口を提供している。このコミュニケーションタッチポイントも多彩で、電話による相談から、SMS、facebook Messenger、webchat、virtual appointment(オンライン動画相談)を用意している。このようにお客とデジタルでつながる方法を既存の仕組み(サブスクシステムや既存SNSの活用)で構築することで、彼らもP&G同様、お客様の製品使用時間に自然に入り込むことができる。育児用品、食品は、おむつ同様いつかは利用が終了する商材にもかかわらず、競争も激しく、お客によるブランドスイッチも頻繁に発生するマーケットだ。

 しかし、だからこそ忙しい両親が悩むことなく、育児に専念できる環境を、サブスクリプションサービスというデジタル活用が不可欠なプラットフォームを構築することで、お客との強い繋がりを構築しているのである。このつながりがお客様に優れた体験を提供することができれば、そのほかの商材購買やブランドロイヤルティ、ポジティブなクチコミに通じていくだろう。

D2C事業を通してお客様と繋がり続けるのに必要な要素とは何か

 ここまでP&GとGerberのデジタル活用術について解説してきた。このような取り組みを最近は、お客様との直接繋がることを前提とすることから、Direct to Consumer事業、D2Cなどと呼ぶ。顧客時間では、言葉遊びのようだが、Consumer(消費者)ではなく、Customer(顧客)という言葉を使うようにしている。その理由としては、やはり単なる商取引の関係であれば、「消費者」と呼んでも構わないが、このような直接繋がり続けるという能動的な行為を伴う、IoTデバイスの購入や、サブスクリプションサービスへの加入には、お客自身にも覚悟というのは大袈裟だが、企業・サービスに対するコミットメント、期待が込められている。お客も比較的大きなリスク、コミットメントを約束する行動を伴うD2C事業の対象者はやはり、Customer(顧客)と呼ぶべきであろう。

 ではこのような大切な顧客である、お客様とデジタルで直接つながり、お客様の期待値に答えるには、製品やデジタルプラットフォーム以外に何が必要なのだろうか。その答えとして参考になりそうな考え方を今年のCESのセッションから紹介したい。

 そのセッションタイトルは「Consumer Adoption of New Hardware」(消費者による新しいハードウェアの受容)。このセッションの中で、CESを主宰するCTA(Consumer Technology Association)のリック・コワルスキ氏は、「新しいハードウェアの受容行動に必要な5つのポイント」を開設しているが、そのポイントを筆者のアイデアを加えて改善したものが下の図である。

デジタルを活用したお客様との繋がり作りに求められること

 リック・コワルスキ氏は、主にIoTデバイスを中心に、新しいテクノロジーの受容行動には上記の5つのポイントが大切だと解説している。その点においてはLumi by Pampersは完璧な事例と言えるでしょう。しかし、Gerberのようなインターネットを活用しただけともいえるサブスクリプションビジネスにおいてもこの5つの要素は大切である。

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