「Smart Store」により迅速かつ柔軟な店舗展開とデータ取得を促進=Smart Store / 日本マイクロソフト
流通小売業のデジタルトランスフォーメーションを支援
流通小売業のデジタルトランスフォーメーションが加速している。米国の先進事例を学び、積極的にデータ活用を推進しようという取り組みが相次いでいる。その一方で、デジタル化を進めたくても何から手を付ければいいのか、既存のPOSやバックヤードシステムのサイロ化で統合したデータ活用環境をどうつくるかといった戸惑いもある。
日本マイクロソフトはこのほど、顧客およびパートナーと連携し、日本の流通小売業のデジタルトランスフォーメーション推進を支援する施策を打ち出した。
米国でのユースケースをベースに日本企業を支援
米国を中心に、昨年までにリアル店舗を舞台にデジタルトランスフォーメーションがかなり進捗した。その要因となったのは、インターネット通販のアマゾン・ドット・コムの急成長。消費者は従来のリアル店舗での購買から、より手軽に購買することが可能なECサイト利用へとシフトした。
そのため米国では百貨店の閉店やチェーン店の店舗縮小などが起きた。単にECサイトが急拡大しただけではなく、インターネットの強みを生かして顧客の属性や購買履歴といったデータを活用することで、リコメンドや顧客別のセールなどさまざまなマーケティング手法を展開し始めた。
もはや小売業という範ちゅうにとどまらず、データカンパニーへと本来の姿を変え、M&Aを通じてさらに巨大化。ECだけではなく、1年前の2018年1月にシアトルに開設された無人店舗「アマゾン・ゴー」のように流通小売業のスタイルを変革するモデルも手がける。そうした、いわゆる「アマゾンエフェクト」は、製造業から物流業、流通小売業まで多大な影響を及ぼしている。
アマゾンの台頭に影響を受けながらも、既存の流通小売業も手をこまねいて市場が奪われるのを見ているわけではない。その切り札が、データを活用しリアル店舗の強みを生かしたマーケティングと業態の変革だ。ウォルマートやGAP、クローガーといった米国の大手流通業者はマイクロソフトとパートナーシップを結び、クラウドサービスの「Microsoft Azure(マイクロソフト アジュール ※以下 Azure)」を活用した流通ビジネスの変革に乗り出している。
そうした米国でのユースケースを取り入れながらも、日本マイクロソフトは、あくまで“日本発”で国内の流通小売事業者向けに「Smart Store」のプラットフォームを提供していくことを決めた。
リファレンスアーキテクチャーを無償提供
「現状はPOSしかない環境でも、今後は店舗内のカメラを使った入館時の顔認識やヒートマップ、AIによる需要予測やデータ分析、スマホやタブレットを使った決済などさまざまなデジタルトランスフォーメーションを実現可能であり、そうしたツールは揃っている」と日本マイクロソフト・エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部の越田陽一氏。
しかし流通小売企業にとっては、何から着手すべきか、数多あるソリューションからどんなツールを選択すべきかがわからないのが実情だろう。誰かが先導して、流通小売業向けのベンチャーやSIerのソリューションを見極めて、AIやIoTを活用したデータ取得の仕組み、さらにはデータ連携を図る仕組みを提案する必要がある。顧客とパートナーを協創する環境をつくろう、というのが日本マイクロソフトの「Smart Store」のコンセプトである。
提供するサービスは3 つ。1つめは「Smart Store」を構築するためのリファレンスアーキテクチャーの提供だ。リアル店舗を展開する流通小売の各社にとって、ビジネス領域やサービスの差別化は重要。しかし差別化する必要がない店舗運営や在庫・商品マスター管理、スマホ決済などシステム共通部分は、あえて独自に開発する必要がないため、日本マイクロソフトが標準仕様ともいうべきリファレンスアーキテクチャーを無償で提供する。
提供するのは店舗ビジネスでの主要な業務シナリオ、サンプルアプリケーション、サンプルコードなど。Azureを活用し、ベンチャーやSIerが開発したシステムのデータ連携を図れる体制を構築して顧客に提案する。これにより流通小売企業は、新規サービスの開発期間短縮と開発費の削減、クラウドによる運用費の大幅削減を実現する。パートナー各社はリファレンスアーキテクチャーで提供されるAPIを用いることで、データ連携や他ソリューションとの連携も容易になる。
これら「Smart Store」リファレンスアーキテクチャーは、「マイクロソフトが2018年6月に買収し、バージョン管理のウェブサービスを提供しているGitHubを通じて無償提供されることになる」(越田氏)という。
「Smart Store」技術者育成プログラムも3月スタート
顧客側でもパートナーとなるベンダーでも、「Smart Store」に対応する技術の習得は重要だ。そこで日本マイクロソフトでは2019年3月から、「Smart Store技術者育成プログラム」をスタートする。「これも協創の一環。さまざまなシステムやツールが市場にはあるが、「Smart Store」実現にはデータ連携が不可欠。AIやIoTをはじめとした先進的なテクノロジーを習得する機会を設ける」(越田氏)ことで、顧客にムダな投資をさせず、最適な環境を迅速に構築できる技術スキルの向上を図っていくという。
また、流通小売業に特化した技術ハッカソンを実施し、「Smart Store」のリファレンスアーキテクチャーを活用した実践的なアプローチの習得も予定している。提供開始から1年で3000人の技術者育成を図る方針だ。
3つめの施策として、テクノロジーやツールの提供、最適なシステム提案にとどまらず、顧客企業が他社と差別化した新規サービス開発を行うための支援策も展開する。マイクロソフトのデジタルトランスフォーメーション支援部隊であるデジタルアドバイザーが、各企業の経営状況や事業ポートフォリオ、ビジネス戦略を考慮したコンサルティングを提供するとともに、パートナー企業とも連携して顧客の新規ビジネス開発に貢献していく。
ドラッグ、コンビニでも「Smart Store」の取り組みが拡大
トライアルHDは、2018年2月にクレジット決済機能付きの「スマートレジカート」を導入した。
国内でも「Smart Store」の取り組みが、ようやく2018年初頭から緒に就き始めた。トライアルホールディングスは、2018年2月にクレジット決済機能付きの「スマートレジカート」を導入した。
「当初はなかなか普及しなかったが、2か月ほどで誰もがスマートレジカートを当たり前のように使うようになった。そうした仕組みを取り入れることのハードルは高そうに見えるが、実際には売上アップや生産性向上、買物客からの評価アップなど効果は大きい」と越田氏は「Smart Store」の普及に自信をみせる。
政府は2018年3月に、日本チェーンドラッグストア協会と、2025年までにRFIDを業務改革につながるデバイスとして活用する「ドラッグストアスマート化宣言」を策定した。官民挙げてのリアル店舗強化策も出てきている。
さらに国内大手コンビニの一角を占めるローソンは、2018年10月に開催された、エレクトロニクスの専門展示会として世界有数の規模を誇る「CEATEC JAPAN」に小売業として初めて出展。日本マイクロソフトは、ソリューション提供企業の1社として参画し、「Smart Store」リファレンスアーキテクチャーをベースとしたウォークスルー決済やリアルタイムでの在庫可視化を図った次世代型コンビニのコンセプトモデルを展示した。
このように日本でも、流通小売業のデジタルトランスフォーメーションは着実に進展していく。越田氏は、「2019年はトレンドとしてデジタルトランスフォーメーションは急速に進展すると考えている。そうした意欲のある流通小売企業を支援するために」として、パートナーと連携して「SmartStore」の普及をめざしていくとしている。